ガツンと春の雨が降った夜。
ちょうど夕食時だったので雨宿りを兼ねて町中華に入った。
外は雨。どんどん人が入ってくる。
おじさんたちや近く大学の学生やひとり客や子ども連れの家族。
いろいろあるけどさ、とりあえず食べようよ(飲もうよ)と言えるのは
夕飯だけの特権であり、わりと『いろいろ』によく効く魔法のひとつ。
雨の降る音や窓から差し込むほどの稲妻より、
隣のテーブルからの声の方が大きくて聞き取れないから、
わたしたちはいちいち
えええ? と顔を寄せ合うけれど、
こちらも『騒がしい隣のテーブル』なのだから
お互い様。
くちびるを油でひからせ次々と中国料理平らげてゆくうち、
雨は小雨になり雷はどこかへいってしまった。
競っていたように騒がしかった店内も秩序を取り戻し、
炒めたり蒸したり揚げたりする音に
一瞬全員がうっとりと耳を澄ます。
「お水ください」
店内に漂う八角に負けないくらい強い香水の匂いがしてきた。
彼女は食事の締めに水を一杯飲み干し
お勘定を済ませて出て行ったあとも
暫く漂って、
颯爽と明日に近づくしるしのようだった。
芸術
