義父はたいそう偏食で、浜松気質でもあるから

NOと言ったらてこでも動かなかった。

そのひとくちを食べなければ餓死するといわれても、

気に入らない食べ物を口にするくらいなら死を選ぶようなところがあった。

※アレルギーで食べられないケースではありません

甘いものが好きというわりに、ひとくち食べてお気に召さなければ

「いらん」と皿を義母の前へと押し戻すのをよくみた。

行列のできる洋菓子店や、予約限定品のスイーツ、

北海道産小豆で丁寧に煮た和菓子など、

目の前で何度容赦なく切り捨てられただろう。

当然、素晴らしい有名店のケーキがおめがねに叶うこともあるけれど、

は?というような駄菓子屋のケーキが旨いと言うこともある。

義父の基準はそこではない。

ただ、一度気に入ると死ぬまで贔屓だったから、

お店にとっては厳しいが良いお客さんだったとおもう。

 

写真のショートケーキは、

晩年父の偏食が加速して、体が骨と皮だけになっても食べられたものだ。

この店の他のスイーツはだめなのだが、

こちらのお品は亡くなる2カ月前まで完食していたお気に入りだった。

義父に、食べられる基準を聞いておけばよかった。

偏食の多い義父だけれど、ここまでとは知らなかったのだ。

 

毎年わたしが義父に贈っていたバレンタインデーのチョコレート。

義理満載のというか、むしろ義理でしか存在しないようなチョコレートを

義父が食べ残したことは一度もなかったから。

不相応のお返しもなんだか申し訳なくて、

いつに間にかギフトのやり取りもなくなっていたけれど、

餓死に勝っていた義理チョコとは、義父にとっていったいどんな味だったのだろう。

 

 

一年祭を迎えるにあたり、義姉が買ってきてくれた

やさしいやさしい味