経営者であり研究者だった伯父が逝去した。
 
どんな立派な会に呼ばれても
シャツとネクタイは欠かさないのだが、
スーツではなく従業員と同じ作業着を羽織るというのが
伯父のこだわり。
作業着といえば。
もう何十年も前、伯父が工場の一画にある研究所で
実験をしていたら爆破して生死を彷徨ったこともあった。
新聞の一面に載った大火災だったけれど、
いったい何の実験だったのだろう。
だれからも漏れ聞こえてこないので、
タイムマシンでも作っていたのかと噂されるほど、
どこか憎めないお茶の水博士のようなひとだった。
では万年青年かというと、微妙な生臭さも備えていて
亡き伯母とは仲がいいのか悪いのか、
喧嘩をすればパトカーが出動するくらい激しかったと聞く。
わたしの母は伯父の歳の離れた妹になるのだが、
その激しさゆえなのか随分いじめられたらしく、
棺に添花をしながら、母はそのことばかり呟いていた。
(いじめられた側は老婆になっても忘れないという証拠)
 
激しく一途で頑固。
葬儀の場になれば、難しい性格ですら懐かしい。
ご焼香のとき心のなかで「ありがとうございました」しか言えなかった。
それ以外なにが言えるだろう。
死こそ年功序列がいい。
長老として旅立ってくれたことにもありがとうです。
伯父と同じく経営者である従兄姉の喪主の挨拶も
心温まる素晴らしい内容で、さぞかし伯父は喜んでいるに違いない。
不思議にさようならという気持ちにならないのは
親族だからだろうか。
仏式は仏様になるまで四十九日かかるというのに
「家族親族をどうぞ見守ってください」と
気の早いお願いもしてしまった。
やはりさようならではないんだよなぁ。
 
 
年末年始仕様シャンパンゴールド。手袋をして参列。
 
 
 
 

足跡は二十五㌢冬の虹   漕戸もり