甘くなるどころか日に日に硬くなるラフランス。
路地ものだから小柄ではあるが、
常温で1週間もすればおいしく食べられると聞いて買ってきた。
痺れを切らして2週間後、ひとつ剥いてみると根菜類かとおもうほどそっけない味わい。
繊維の粗い大根にやや酸味を効かせたような食感と味は、
白だしで煮ふくめるにふさわしいような「野菜」だった。
でも、せっかく果物として生を受けたのだし、
ここは果物としていただこうと、コンポートをつくることにした。
 
芯が硬く等分するのにひと苦労しながらナイフをいれ、
軽く洗って蜂蜜とブラウンシュガーをまぶしたらそのまま約10分馴染ませる。
炭酸水(昨夜ジンを割った残り)と水ををひたひたになるくらい注いだら、
ゆっくりゆっくり煮詰めてゆく。
竹串がすっと入り、果実の色が蜂蜜色になったら完成。
このときにレモン果汁を振りかけ冷めるのを待ってもいいけれど、
食べるたびにレモン果汁をかけるのもおすすめです。←わたしはこちらが好き
ほかほか温かい出来立てを食べるのも旨い。
こちらは料理人の特権なので遠慮なくいただきます。
 
果物を煮るには年齢が必要かもしれない。
10代の頃より数限りなく苺や林檎や梨やオレンジなどを煮てきたが、
いつも罪悪感がつきまとっているのだった。
意地悪をしているつもりはない、ましてや殺そうとしているのではない。
それでも、魔女が大きな木匙で鍋をかき混ぜかぎ鼻を膨らませているような感触が、
果物を煮るという行為にはある。
それを一旦飲み込めるようになるのに、ひととしての年月が必要だということなのだ。
温かいラフランスのコンポートをつまみながら、こんなに大人になるなんてねえ、と
誰のことでもない、自分自身に感嘆するのである。
 
 
長野県産ラフランス。セザンヌやゴッホの絵画ではありません。
 
果物の意地をお見せしましょう
 
やさしい子たち
 
 

歯の跡が冷へたナイフをおもはせる洋梨は重心を定めず

漕戸もり