蛍烏賊は春の季語ではあるが、食となると秋の蛍烏賊は絶品である。
いくらでも食べられるし、何杯もお酒がすすむ。
これくらいのことで、明日をもうすこし頑張ってみようとおもえるのは、
ほんとうにありがたいことで、
グルメの友人知人仕事仲間からはすっかり誘われなくなったけれど、
no problem.
そちらはそちらでどうぞ、こちらはこちらで気ままにやるんで、と心を決めたら
みるみるうちにこちらの仲間が増えてきた。
要するに、コップの大きさは変わらないのだ。
ただ残念ながら、「こちら」ではわたしにも仲間たちにも恋愛沙汰は滅多に起こらない。
もはや残念なのか安泰なのか謎だけど。
どういうわけか恋愛沙汰というのは「そちら」と「こちら」のあいだに起こる。
互いが魅力的に見えるいうよりも、おこないを糺そうとしているうちに惹かれてゆくといったほうが近い。
糺そうとしたり、糺そうとされたりしながら、性懲りもなく繰り返していた恋愛事情。
「こちら」にどっぷりと浸かりながら、蛍烏賊にかぶりついている今が心地いいとは、
つくづくずいぶん遠くまで来てしまったものだ。
もっと踏み込んだ言いかたをすると、
「こちら」から「そちら」を眺めているだけで、十分満足なのだった。
いったいわたしは今どの域にいるのだろう。
富山産ほたるいか食べ比べ
胸もとのあいたカッターシャツからも晩夏とわかる他称のひとの
漕戸もり
夜の電車のなかで、ネクタイをほどきワイシャツをすこしはだけて生真面目に立っている脂っぽいサラリーマンが嫌いではない、と言ったら友人からキモがられた。
キモいけど、キモさの中にしか詩歌は生まれないんだとおもいます。
