行きすぎている近所の町中華で、頼んだことのないメニューを頼もう、というモードになっている。

こんなに通っているのに、まだ全メニューを網羅していないのは、「語る」に足りないと思ったのだ。

この場合の語るとは、この店についてでもあるし、わたしの中華料理論でもあるし、人生でもある。

例えば、好きでもない男に変な誤解を招いたり、詩歌集が買えるお小遣いを、失意の中に捨てた思いになったり、この時間があればもうすこし眠れたのに、と睡眠不足を憂いたり…そんなこともあるだろう。

けれど、もしかしてそれらが素晴らしい語り部の入口かもしれないのだ。

恐る恐る橋を渡るのではなく、橋を掛けるように むむむ というメニューを食べる旅は始まった。

 

 

鶏肉レモンソース煮

 

天津ラーメン

 

 

責任のない仕事得て朝曇   漕戸もり

 

仕事でお世話になっている企業の取締役から、定年を迎え役職無しでもうすこし働くという報告。

こういう報告にいつも戸惑う。

立派に勤めあげた功績は素晴らしく、堂々と労って差し上げたいのだけど、彼らは概ね沈むような顔つきで、ため息などを漏らすのだ。

きみならどうする、と問われて見あげる空の曇り日。