全品370円になってから初めて鳥貴族へ行ってきた。
トリキではカップ酒、と言っても赤ワイン、を飲むことが多いからか、グラス一杯ほどの小さなカップワインが高く感じる。まあ、いわゆる『ふつう』になっただけのことと思えばそれまでだけど。
元々安上がりで舌音痴にできているせいか、トリキとサイゼリヤの通常の赤ワインはいくら飲んでも翌日残らないうえ、どんな料理にも合う。どうかもうこれ以上値上げしないでください。
先日ソムリエ氏と仕事をする機会があった。
ここ数年ソムリエもしくはワインエキスパートの資格取得を叶えた人たちは、知識だけ豊富にあっても高価なワインを飲める機会がないから可哀想だと嘆かれていた。実際の試験勉強も大変で、ワインの生産地や葡萄の品種は増える一方。広辞苑のような分厚い教本でひたすら暗記し、言葉の贅を使い尽くした味わいの表現(昔でいうところの猫のおしっこのような…だとか)を学び一次試験を通過すると、いよいよティステイングの二次試験だが、一口とはいえ大量の受験者にロマネ・コンティやモンラッシェ、ペトリュスが用意されるはずはない。それならば現場で飲むぞ〜と胸元にキラッキラの葡萄ピンを光らせ表舞台に立ったとしても、今や投資の対象でもある高級ワインを、お客様の残りものだとしても、滅多にご相伴に預かることはなさそうなのだ。
初老のソムリエ氏は、彼自身が味わってきた数多高級ワインの蘊蓄を、おばあちゃんが昔話をするみたいに聴かせてくれた。わたしはソムリエ氏の体感を通して、生涯いただくことのない高級ワインをうっとりと味わうのだった。
情報はいらない。体験が聴きたい。
わがままな観客に、ソムリエ氏は
「日本にいては無理ですよ」と歌うように言った。
選択を迫られている。
あなたもだけど、きっとわたしも。
トリキで写真を撮らなかったので別のお店のポテトサラダをどうぞ
定住に吐く息を吸ふ熱帯魚 漕戸もり