ひとり酒場で 飲む酒は
別れ涙の 味がする
飲んで棄てたい 面影が
飲めばグラスに また浮かぶ
〜「悲しい酒」作詞石本美由起 より一部抜粋
 
石本美由起さんの詩が好きだ。
確実にとても頭のいいひとだったと思うが、それをひけらかさず淡々と、誰でもがわかりうる感情を、ものすごく慎重に、心地よい語順で連ねてゆく。
この歌の最も幸運だったのは、それを正確に表現する歌い手に恵まれたことだ。
たくさんの歌手が競演しているけれど、美空ひばりの「悲しい酒」に勝るものはない。
悲しい酒を歌う美空ひばりは、必ずひとすじの涙を頬に垂らすのだった。
物心すらついていないわたしは、あのとききっと、最初の(ものごころ)という、初潮に似た確かさを手に入れたのだと思う。
大人になり、改めて石本さんの歌詞を読むと、どこにでもある失恋の話なのだけど、美空ひばりが歌うと、もっと深い柔らかい場所を抉るような泥臭さが滲み出て、ぞわっと「悲しい酒」が身に沁みてくる。
奇跡とは、こうゆうことをいうのだろう。
 
 
ついうっかり買ってしまった

 
ゆでたまごで何杯でも飲めるくだらなさである。
 
 
すぐれていなくてもいいから、寄り添うような歌をつくりたい。
だれかを癒すことで癒されるような。
 
 

ひざまづき髪を洗へば梟の少女とおなじ夜の寂しさ

漕戸 もり