階段を降りてゆくと、御一行様の夕飯のお膳が、広間にずらりと並んでいた。
ひとりひとりに一人鍋がついた、本格的御一行様仕様である。
もう何十年、この近所のいくつかの現場に仕事で通っているのに、こんな近くに驚くほど老舗旅館めいた食事処があるなんて、想像もしなかった。
4人のわたしたちは、仕切られている掘り炬燵の個室に通され、串焼きやら蓮根チップスやら、白子の天ぷらやらをつまみに、実に穏やかな新年会をしたのだった。
不思議にも、100人はいたと思われる御一行様の声は、まったく届いてこなかった。
防音がしっかりなされているのか、わたしが見た御一行様の夕餉は幻だったのか。
都会にある地下の奇妙なお店、という印象だけ残して、新年会はお開きとなった。
不思議に静か。
蒸れさうで蒸れずに終はる掘り炬燵 漕戸 もり
