朝起きると、食卓に缶詰がころがっていた。
昨夜はわたしが飲み会で遅かったのと、今朝は家人が早く出かけたらしく会っていないので、詳細はわからないが、ぽつねんとひとつだけ残されているのをみると、家人が仕事先で試供品としていただいたのかなにかだろう。
非常食という類を購入したことがない。ずいぶん前、食品以外のスリッパ、タオル、懐中電灯、ホイッスル、携帯ラジオを入れた非常持ち出し袋を準備したが、懐中電灯とラジオは乾電池を入れっぱなしにしていたせいで錆びついてしまい、それらを除いたらなんともお粗末な備蓄品となってしまった。一体何年前に用意したのだろう。ラジオと懐中電灯が錆びるくらいだから相当前だったに違いない。
こんな体たらくなので、もし非常食を持ちだし袋に入れたら、例え乾パンであろうとも元々ミイラみたいなものだったのが、途轍もないミイラになってしまうのは目に見えている。
ちょうど一週間ほど前にも、ふと非常用に買ってあったひとケースの水の消費期限を確かめると、今年の4月になっている。それで慌てて2リットルの水を次々と飲んでいるところでもある。
飲むのかよ、と怯むあなた。命(お腹)を張って飲むのでございます。
だいたい、ペットボトルの水が7年保存可能だからといって、はいそうですねと素直に信じているわけではない。けれども、保存期間の長さにつられて購入しては、その7年ですらとっくに気づかずに過ぎているのだ。これは貴重な人体実験の機会だと腹を括るしかない。
災害はどこで遭遇するのかわからない。この事実も備蓄品に関心を向けられないひとつである。だからと言って、備蓄しないでいいと断言できることではないのだけど。
とりあえず、このHIJOSHOKUは今日から我が家の唯一の非常食となった。
缶詰をキッチン棚に納めながら、開けることなくつつがなく暮らせますようにと、御守りのように願っている。
開くのは夏だけだからよくわかるあなたが誘ふ海の両うで
感情が溢れてしまふ海開きした夏の目があなたを捉へ
この夏のわたしをことばに替えてゆくあなたはかほを出して泳ぎぬ
漕戸 もり
あなた特集。
相変わらず返歌の習作をしています。
運が良ければ作者に届く、くらいの。
