カニエ・ウエストも愛用かなにか知らないが、それにしても、たかがキャップごときにそんな大金を出すなんて意味がわからない。
色はありふれた黒なのに、限定モデル?で、尚且つこのサイズは日本に残り数個というレアものらしい。だからといって、この値段はないでしょうよ。
 
ネクタイにこだわりのある男ともだちがいる。彼曰く、〆心地、手ざわり、配色、デザイン、すべてにおいてブルガリのネクタイ以外はネクタイではないらしい。クラブ(おじさんが行くほうのクラブ)のお姉さまがたから、誕生日やクリスマスにエルメスやディオールなどのネクタイを贈られても、袋だけでメルカリに出せば何千円で売れそうなのに、ちらっと柄ゆきだけ確認するとそれに似合いそうな後輩や友人にあっさり配ってしまう。
恋人にネクタイを贈ったばっかりに、会うたびにしているかしていないか気になって、挙句の果てに口論になるような苦い経験をしたことがある。あれ以来、恋人はもちろん父や兄弟にもネクタイを贈りものにしたことがないからネクタイの適正価格には疎い。そのため、前述のブルガリくんに聞いてみると、涼しい顔で3万~5万だと言う。
 
( ゚Д゚)ハァ?
 
大塚屋(名古屋の誰もが知る布地屋さん)で、1m四方のお好みの布地を買ってきてくれれば、3千円ほどで縫って差し上げるわ!と伝えると、まあ言われてみればネクタイなんて女性の下着ほどの布地で作れるもんな、としみじみしている。
しみじみしている場合か。
こだわりのある俺って、という表情で遠い目をするなって。
 
このキャップといい、ネクタイといい、多くの罠に嵌まる身近な者たちへわたしは怒る。怒るのだけど、罠にはまったままうっとりとしている者たちは、なにに怒っているのかさっぱりわからない、あなたは実におもしろいひとだ、などと人をあざ笑うだけなのだった。
 
 

あさがほの夜な夜な会ひにゆく人と別れるためにまぶたをひらく

                    漕戸 もり

 

夜になりそさくさ花びらを巻き閉じている朝顔をみかけると、会いたいひとに会いに行くのかとおもうことがある。日中の開き切った朝顔よりもなんだか愛おしい。