見慣れている風景が、突然日本画になった。

まるで、雷神風神が空から覗いているようだった。
まず筆の先端に黒の絵具を米粒ほど掬い、水をたっぷりふくませ街にじわじわ吸い込ませていく。こうやってできたシミは、煙となって街どころか世界全体をすっぽりと覆ってしまった。
それにしても、霧に包まれたやさしいんだか優柔不断なのかなんだかはっきりしない風景に、こんなにものすごい轟音が響いているのを知ると、今まで信じてきたものが、もしかしたら間違っているんじゃないかと心配になってくる。
そのうち、轟音は静寂にこそふさわしいのだとおもえてくるのだ。
風の音。雨の音。振動。
やさしいひとをやさしいと見くびってはいけない。
ごうごうとふぶかせている激しさは、やさしいひとの静寂と大変相性がいいのである。
 
 
   夏の雨さめざめ泣いて匂ひたつ      漕戸 もり