仕事の前日は飲まないことにしているけれど、何事にも例外はある。
前乗りをしたホテル泊のうえ、明日は喉を使う仕事ではないので、
急にハードルが甘くなるのは致し方ない。
この程度なら差し支えないというのが、500mlと350mlの組み合わせ。
どのコンビニでも大抵おいてある酒の盟友、横綱あられとともに買う。
それから、カット野菜を一袋。塩分摂取のないドレッシング抜きはありがたい。
なぜならば、塩分は別のところで浴びるように摂りたいのだ。
あっさりおいしいカップヌードルカレー。
部屋に備え付けの電気ポットに、水を満たして沸かす。
できあがった湯をじょぼじょぼじょぼ、と
音を立ててカップに注ぐときの背徳感は快感でしかない。
カップヌードルの蓋へ置く重しを、そのあたりに探すのも醍醐味だ。
なにしろ3分以内に探し当てないと意味がないのだから、
案外必死である。
ときどき、え?こんなものを?と後で呆れることもあるけれど、
重しにふさわしいものを四苦八苦して工面したときほど、
<こんなもの>はひかり輝く。
この日重しになったのは、湯飲み茶わんの蓋。
サイズ感といい、重量といい、おまけに摘みもついていて、
カップヌードルの紙蓋の捲れを、押さえつけるために生まれてきたような風格さえある。
自宅ではなかなか巡り合わないこのような遭遇は、旅先ならではの一期一会だ。
ぐびぐびぽりぽりしゃきしゃきズルズル。
手間のかからない夕餉は、オノマトペたった4つで言い表せられて、
無駄なところがないシンプルなリズムとなった。
嫌いじゃない。いやたぶん、すきなのだとおもう。
ヌードルの蓋を押さへる手がたつたひとつの島でどこへもゆけず
漕戸 もり
…という環境にも心当たりがあります。

