そういえば、短歌ホリック8の感想文を
つづきはまたいずれ、とかなんとか言いながらそのままにしていた。
つづきはまた、とか、この話は日を改めて、とか言うときは、
大体においてつづきも後日もない。
そういうときは、もうすっかりじぶんのなかで処理されて
きれいにかたがついているのだ。
わたしがインスタグラムをやらないのは、写真を撮るのが苦手というのもあるけれど、
映像や言葉につないでおかなくても、
心に落とし込めることが日常には多くあって、
そのことを、カタチに残すことよりもたいせつに考えているからだとおもう。
そんなふうなことを気づかせてくれた短歌ホリック9。
冊子を、手が千切れそうなくらい何冊も鞄にいれて持ってきた歌人の辻さんから買う。
こういう<手が千切れそうな>込みで、やってくるのも
短歌ホリックらしくて味がある。
既に、読書感想文は心のなかに留め置く気配がぷんぷん匂うので
(季節柄ジャスミンのいい匂いです)、
今回はゲストを含む9名の歌人の各20首の連作から、
好きというよりも、その歌人でしか詠めないとかんじた歌を、
1首ずつひいてみようとおもう。
まだ短歌ホリック9をご覧になっていらっしゃらないあなたが、
ほほぉその歌人さんいいね、とか、好きやわ、とか、どんな人なんやろ、とか、
くそ変だけど忘れられない、とか、なんでもいいのだけど、
ご興味を持っていただければ幸いである。
梨を剥けば梨のひかりが桃を剥けば桃のかをりが二人を包む
荻原裕幸「獏の噛みあとの残る日常」より
ブリーフ一枚だけで出社はせんやろと喩えを織りまぜながら言われた
小坂井大輔「濁流」より
恋はいつ愛になるのか新橋に近づくほどに眩しくなりて
辻聡之「解散」より
風景を眺めていたら誤りを言われてやがて席を立つ客
廣野翔一「homecoming」より
いつか手離す感情だけど風通るたびにわめいている塀の穴
岩田あを「素性」より
すり傷みたいな雲の次第にくずれてやがて傷に見えなくなるまでを見る
江口美由紀「ぐらんかろらん」より
好きな人の好きな人には宝石が似合う わたしには地球が似合う
谷川電話「魔術師」より
ボトルガムを丸ごと持っている音だ走って来るから走って逃げる
戸田響子「エラーコード935」より
伝線や穴がないかと確かめる黒ストッキングを腕に履かせて
ルイドリツコ「黒ストッキングを腕に履かせて」より
以上「短歌ホリック9」より抜粋
本冊子はこのほかに荻原裕幸の第6歌集「リリカル・アンドロイド」と
第7歌集「永遠よりも少し短い日常」の特集がくまれていて、
各方面から多才なひとびとが解説や1首評をされたり、
歌人たちが両歌集から自由に選んだ歌に、返歌として詠んだオリジナル短歌が
掲載されていたり、またあとがきでは荻原裕幸ファン必見の
荻原裕幸自身の吐露も読むことができる。
吐露のなかに、こんな記述がある。
(略)抒情の海にあって抒情に溺れないような抒情ができたときに、
短歌ははじめて、その時代の声を伝える、
強固な表現になり得るのではないだろうか。(略)
荻原裕幸「抒情のリミッターを緩めて」より
そうだなぁ、としみじみおもう。
愛も変わらず、
すげえきれいなことばですげえきびしいことを涼しい顔で言うのが、
荻原裕幸なのだった。
あ、失礼
相も変わらずでした。
ゆふやみが来て声がとぎれて友人が夾竹桃のすがたにもどる
荻原裕幸「永遠よりも少し短い日常」より
ひとりでもだいぢやうぶといふこゑのする幻に立つ夾竹桃は
漕戸 もり
返歌してみました。
昔働いていた放送局の非正規雇用労働組合の名称が「夾竹桃」だった。
あのころから、強さと弱さの境界がわからなくなったままでいる。
