得体の知れないウイルスや実感のない戦争に、
また、それ以前にみまわれた信じがたい自然災害に、
たとえば火星から宇宙人がやってきたと言われても
<もしかしてありうるかも>
とおもえるような素直さや鈍感力が無理やり備わった。
夕方、ヘリコプターが旋回する音が一時間ほど止まないので
さすがに心配になって窓の外を見ると
冬晴れのありふれた平日の午後だ。
かえってそののどかさが不気味さを増して、
ヘリコプターの耳障りな音がバリバリと一層耳を劈く。
もしかして、もしかして?
もしかして、の先に良いことがひとつも浮かばないのが情けない。
殺人か。
逃走か(なにから?)
事故か。
搬送か(だれを?)
火災か水害か。
それとも…。
名古屋国際女子マラソンの当日も、ヘリコプターは朝から
けたたましく名古屋の上空に存在感をみせつける。
けれど、わたしたちはそれが大きなイベントの為だということを知っているので、
ヘリコプターがいくら大きな音をひけらかしても、
苦情のひとつは言うかもしれないが
不安になったりしないぶん平和なムードは保たれる。
そう、ヘリコプターという飛行物体は
予告なしに長時間飛行してはならないものなのだった。
ヘリコプターの旋回音が先にあり、遅れて消防車のサイレンの音が聞こえだした。
火事だ。
いや、ヘリコプターが消防車より先にだなんてやっぱりおかしい。
わたしがヘリコプターに気を取られている隙に、消防車が集まっていたのだろうか。
なんだか腑に落ちないけれど、
音に届きやすい順番があるという確証もない。
火災現場は家からひと駅先の住宅街。
暗くなってから外へ出てみると、
ヘリコプターの音はなく、消防車のサイレンもなく、
あるのは、噴煙なのか放水なのかどちらともいえない靄と、
消防車の不気味なあかるさ(あとから聞けば消防車は29台出動したらしい)と、
焦げた匂いだった。
なぜだろう。
<もしかしてありうるかも>という受け入れやすさは、
想像できるものには発揮しない。
むしろ、受け入れられない出来事として気を引き締める契機となる。
それでこうして夜中になってもざわざわしているのだった。
決して、宇宙人が来るのは平気という意味ではない。
なので宇宙人のみなさま、どうぞ勘違いしないように。
※これだけの火事に死傷者はない様子。よかった。
蓋をして三分待てば絶対に重いと言ふよきみはあしたを
漕戸 もり
