いくらか受験の方法や時期が多様化してきたと言えども
受験シーズンといえば1月2月。
地下鉄に乗れば、共通テスト会場へ向かうようなひとたちに混じり
中学生や小学生が、進学塾が多く集まる駅へ降りるのに自然に目がゆく。
わたし自身、本を読んだり絵を描いたり散文を書いてばかりで
勉強をおろそかにしていたせいで、
偏差値をあげるのがモチベーションになるような顔つきの受験生たちは
どうでもいいとして、そのなかに、
<いやだなあ。勉強したくないなあ。逃げたいなあ>という
今にも消えて蒸発しそうな表情の子をみかけると、駆け寄って行って
こんなこと長くは続かないのだから今は勉強に集中するほうがいい、と
説教したくなる。
勉強をしなかった後悔は一生ついてまわる。
学歴なんか関係ないとほざくな。
大抵そういうことを叫ぶ貴兄は、
ご自身が学歴とは関係なく、持ち前の才能と努力で充実した人生を謳歌されているか、
すでに学歴をお持ちで、それ故に学歴の効力をあまり理解できていないのかどちらかだ。
もちろん、学歴がなくても素晴らしいひとを多く知っている。
逆に、学歴があっても屑みたいなひとのことをその倍知る。
けれど、もしも幸いなことに進学させていただける条件に恵まれており、
わたしのように凡人であるならば、
目の前の読書や絵や文を書き散らかすことは今やることではない。
今からでも遅くないので、すこしでも勉強をして高みの学校へ行くべきだ。
 
たとえば努力の甲斐あって東大へ進学できたとする。
それでもせっかく入った東大が肌に合わない、と退学することもなくはないだろう。
そのあとノマドになる可能性だってある。
でも、東大へ入学したことはあなたとあなたを取り巻く社会にとって
不利益よりも圧倒的に利益であることのほうが多い。
そういう世界なのだからきれいごとを言ってもしょうがない。
わたしはほんとうに頭が悪いので、そういうことに気づくのが遅すぎたため、
進学についてはことごとく失敗して不本意な高校大学に進んだことに
もう十分すぎる大人になったのにもかかわらず、未だ溜息を吐くことがある。
 

受験シーズンは長くはつづかない。

もし偶然、あなたが受験生であるなら
あと二か月、多くても三か月、目の前にある読みかけの本や書きかけの散文ノートを閉じよう。
今すぐに勉強だ。
舌のもつれそうな文法の活用法を唱えたり、
英単語を音読して自分の耳に飽きるほど聞かせたり、
数学はもう時間がないから問いと答えを丸暗記してシステムを覚えたり、
棄てられる科目は潔く諦め、かわりに得点の稼げる科目を反復しよう。
チャンスを逃すな。
 
写真は某塾の2022年春の中学受験の広告。
過去最高の合格者である74名中の4名の特奨生のひとりを知っている。
そういう子どもには、なにも言うことはない。
その子はわたしのことをしらっと「尊敬しとる(しているの意)」などと言う。
もう十分な大人だ。
応援もしない。
わたしはまだ15にも満たない彼に嫉妬しているのだ。
なんという器の小ささよ。
そんな応援など不必要だと手で払われそうである。
 
それぞれがどうか後悔しないように。
勉強が苦手なあなたを応援します。
 
   指先のない手袋をはめている子の自由にも春はもうすぐ
                  漕戸 もり