我が家の冷蔵庫だった近所の西友が閉店してしてから約3週間。

リニューアルまで約3年余だというのに、

もうずいぶん待たされている感触がある。

無駄に買いものに出かけないようになったのは良しとして、

牛乳やヨーグルトなど買いだめができないものは

買わないわけにはいかないので、もそもそとMやFやBなどへ行く。

(アルファベットはスーパーの頭文字です)

そこで出くわすのは、西友漬けだったスーパーマーケット難民だ。

西友漬けのひとたちは様子でわかる。

会計の際「ポイントカードはお持ちですか?」と聞かれるので

無いとこたえると、

すかさず「おつくりしましょうか?」と店員さんから尋ねられる。

そこで西友漬けのひとは「それってどんなカードなのでしょう」と、

そこのスーパーでは所持することが当たり前のカードについて、

1から説明をもとめるので、大抵そのレジの列は前へ進まない。

あああのひとも西友漬けだったのね、

そういうわたしもそうだけど、と妙な連帯感がわきあがる。

 

ポイントカードはまだ序の口で、

未だにわからないことのひとつに、MとEの関係性がある。

先日、大手スーパーEの5%のネットクーポンがあったので、

EのカードでポイントがつくMというスーパーへ買いものへ行った。

あれこれカゴに詰め込んでレジに向かい、

いよいよお会計のとき、先に開けておいた携帯画面で

大手スーパーEの5%オフクーポンを、

レジのアルバイトくんに勢いよく見せた。

彼はなんの疑いもない様子で、手持ちのバーコードリーダーを

携帯に表示されているクーポンのバーコードに当てた。

けれども、なんど当ててもエラーばかりでちっとも読み取りができない。

もちろん、わたしの後ろに精算待ちのお客様はどんどん増えている。

そこでアルバイトくんは、となりのレジの、

こちらもパートとみられるお姉さんに、

「バーコードが読み取れないんっすけど」

などと言いながら助け舟を求めた。

ここでレジを待つ行列はふたつになった。

パートのお姉さん(とも、おばさまとも言う)はアルバイトくんより

先輩だとみえて、じぶんの列をさばきながら、わたしに

「携帯の電源を一度落としてみていただけますか」などと

いかにもテキパキと指示を出すのだが、

バーコードリーダーは頑なに読み取りをしてくれない。

ついにパートのお姉さんは店内放送のマイクで

「○○さん▽〇◇で▲〇まで」と指令を出した。

どこかで見たことがあるぞ、はてどこだ?とおもうそのひとは

スーパーマーケットの入口に

<店長の○○です。地域に愛されるお店作りをいたします!>(イメージ)

などと書かれたスローガンの上に張り出されているA4サイズほどの写真のひとだった。

○○店長はわたしの携帯画面を一瞥すると、

「ああそれはEのクーポンなので、うちのお店では使えないのです」と

即答するのだった。

パートのお姉さんは、既にじぶんの列をさばく作業に戻っていたので、

アルバイトくんとわたしは「ほう?」という顔で立たされた。

店長は、アルバイトくんはいいとして、わたしになんとかわからせようと

EはMをふくむけれど、MはEになりきれない部分がある、

要するに、数式で表すと

 

     E≧M

 

のような内容を説明しはじめた。

そういう間も、わたしのうしろの列はとてつもない圧を帯びながら伸びていた。

列のせいなのか、元来ものごとを順序だてて話すのが不得手なタイプなのか

わからないけれど、店長のお話はどんどん難しくなってゆく。

 

圧に耐えられなくなったのはわたしだった。

「よくわかりませんが、今日はもういいです」と、

クーポンを諦めてEカードで精算を済ませた。

わかったのは、

店長はスローガンどおり地域に愛されようと努力を惜しまないひとだ、

ということと、

わたしが西友漬けのスーパーマーケット難民だ、ということだった。

ふう。

西友。

早く帰ってきてください、と

ぼんやりおもいながら今日も行列に並ぶ。

 

 

 

         裏側に抱き合つてゐる冬苺    漕戸 もり