ぽかりと空いたある日。
駅近のマンションで、最上階の部屋が開放(セールスのため)
されるというので見学に行ってきた。
地下鉄沿線がふたつも通っていて、ペットも飼える。
リフォーム済なので、電気ガス系統はそれだけでインテリアといえるくらいうつくしい。
懸念は築46年の耐震構造ではない建物ということ。
それでも環境がいいので強気の価格。
ふむふむ。
展望は最高。公園もあり環境も申し分ない。
がしかし。。。
①すべての部屋にいちいち10㌢ほどの段差がある。
せっかくリビングからひとつづきの対面キッチンなのに、キッチンへの段差がきちんとある。
大昔。このマンションが億ションとして名古屋を驚かせたころ(があったそうだ)、
マンションの部屋の構成は、ひとつひとつの場所の存在感を際立たせるため、
段差は必要だったらしい。
②すべての部屋にクーラーを備え付けられない。
見に行った3LDKの部屋に、クーラーはリビングにしか付けられなかった。
約半世紀もたたないうちに、この国の季節はすっかり変わってしまった。
それをどうして予測できただろう。
③普通屋外にあるボイラー室が部屋内にある。
音や熱が部屋に充満しないのか、と常駐されていた不動産会社の若いひとに聞いてみると
「ないものと思ってください」と爽やかなお返事。
いやいや。こちらは何千万のお買い物をするかもしれないのだよ、きみ。
爽やかさを醸し出されても、家、車、生命保険、を契約する際は慎重になります。
あなたもじきにわかることだけど。
④トイレの配管が今どきのおしゃれを超えて(つまり単なる経費を惜しんだということ)むきだし。
壁から突き出る配管のまわりに透き間が3㌢はあるので、そこから
害虫どころかあやしげな風すら侵入してきそう。
⑤ペットは申告式。
でもエントランスの掲示板に、
「ペットを飼っている方は必ず申し出をしましょう」という張り紙が、
苦情が寄せられているからという経緯で貼られているところをみると、
住んでもいないのに、面倒な人間がいるようだとわかってしまった。
わたしが飼ってもいいということは、種類はわからないけれど
なんらかのいきものを飼っているひとがいるということだ。
今さらながらに複雑なおもい。
ヨーロッパでは歴史がある建物ほど高値が付くという。
UKなど、そのうえゴーストが出るのならなかなか手に入らない人気の物件になるらしい。
ここは日本なので、できれば古いのも幽霊もご遠慮したい。
家を選ぶのは、ほんとうに難しい。
ただ観ているだけならこんなたのしいものはないのに。
あれからしばらくたったけれど、あのマンションの空き室には人が住む気配もなく、
だからといって値段を下げるわけでもなく、インターネットに絶賛売り出し中だ。
ときどき、近況を知りたいような気分になって確認するから間違いない。
なんとなくこれは、気が向くと未婚の兄にラインをするのに似ている。
ひやかしといえば冷やかしだけれど、わたしの眼差しは真剣なのである。
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