役者は揃っていた。
勢いよく燃えさかる炎
底力をみせつける薬味
流し込むスーパードライ
感謝しながらいただく素晴らしい牛肉の数々
心許せる数人の仲間。喚起の行き届いた清潔な店内。
ただひとつ。
ビールが冷えていなかったぁ

それから先はよく覚えていない。
人は茫然としながらのほうがよく食べられるようだ。
足りない気持ちを埋め合わせるように、体の空洞という空洞が
肉と米とカクテキとサンチュとおまけに冷麺も流し込みぎゅうぎゅうになっても、
ぬるいビールによる落胆はすこしも立て直すことができなかった。
今更だけど、焼肉屋さんというのは実は焼き肉を食べるところではなく、
冷えているビールを美味く飲むところなのだった。
冷えているビールが最もうまいと感じるのは寿司屋でも鰻屋でも中華料理店でもなく、
焼肉屋だということに焼肉屋さんの絶え間ぬ努力が隠されていたのだ。
そうなんだなぁ
それはそれは大変な企業努力だと拝察する。
それゃあときにはビールを冷やせない事情もあることだろう。
わたしもこれからはうっかり、なんてことなく
ビール、まさか冷えていないっことないでしょうねぇ
と、きちんと確認するようにします。
こうしてめんどくさいおばはんになってゆくのだろう

まあそれも進化と言ってみれば、成長と思えないでもない。
身長も体重も成長をやめたのに中身だけが成長するって、今にどこかが悲鳴をあげそうだけど。
小松菜の爽やかだけどそれつきり 漕戸 もり

