定数削減法案が通ると、当然のことながら区割りの抜本的見直しが必要となる。小選挙区制をどうするかも含めて議論する必要がある。石橋は、もともと小選挙区制には反対だ。小選挙区制にすれば政権交代が容易になるとの触れ込みだったが、政権交代そのものが自己目的化しており、これでは本末転倒だ。石橋が危惧していたように、政治家は小粒化した。ベテラン議員は、『地元の有権者の陳情を聞いて、これに応えるのが政治家の重要な仕事だ』と若手議員を叱咤激励し、それが小粒化に拍車をかけた。
 
 与野党で激しい論戦を繰り広げたが、最終的には改新党案の比例代表制に落ち着いた。4か月後の参院選に間に合うように施行日は3か月後と定められた。これと並行して議論された道州制も可決され、施行日は選挙制度改正法と同日だ。参院選に間に合わすべく、精力的に選挙の区割を議論し、衆参とも、各道州を1選挙区とし、有権者数に比例して選挙区ごとの定数が決められた。
 これらの重要政策がすんなり通ったのは、改新党が圧倒的多数を占めていて抗しきれないということだけが理由ではなかった。これらの法案に対する世論調査で、改新党案が国民の圧倒的支持を得ていることが明らかになり、反対するのは得策ではないとの計算が働いたからだ。計算といっても、勝算があるわけではない。何とか解散を避けて、少しでも議員の延命を図りたいという切ない願望を抱いてのことで、選択の余地はなかった。

 その願望も、はかなく潰え去った。石橋は、衆議院を解散して、衆参同日選挙とすることを宣言したのだ。当然のことだ。この選挙制度改革は、改新党にとっては善であり、“善は急げ”という大儀がある。
 定数削減後の衆議院選挙では、改新党の現職衆議院議員が全員衆院選に立候補できるわけではない。次期衆院選の候補からあぶれる改新党の現職議員には、参院選という受け皿を用意したので、彼らに不満はほとんどない。哀れなのは、保守党の現職議員だ。多くが再選できずに失業することだろう。与党時代に、国民の期待に応える政治ができなかったのだから仕方ない、と言われれば反論の余地はないだろう。しかし、国民の信頼を失ったのは、与党として実績があげられなかったからというだけではなかった。 “由(よ)らしむべし 知らしむべからず” というのが保守党の国民に対するスタンスではないか、と感じ始めたからだ。そのツケは大きかった。
 以前、保守党が下野した時には、大いなる反省のもと、党内の意識改革を図って引き締めを行い、再び政権に返り咲いた。反省が功を奏したというよりも、政権奪取した与党が、わずか数年で自滅したからだ。上手の手から水が漏れた、というよりも、下手な手には水が溜まらなかった、というべきだろう。

 衆参同日選挙は、マスコミの予測通り、改新党が圧勝した。衆議院では3分の2を軽く超える議席を確保し、参議院でも過半数にはわずかに届かなかったものの、余裕の第一党で、どの政党とでも政策合意すれば過半数を確保できるだけの勢力だ。

 国会を安定に運営できるだけの勢力を確保すると、まず、手を打ったのは、行政の無駄の温床となっている官僚と閣僚のもたれあいの解消だ。国会議員を半減させた以上、そうした無駄を排除することは避けて通れない。それは、改新党の方針としてすでに公表していることでもある。
 石橋は、党首として国対委員長に、各党に呼び掛けて議院運営委員会を開き、各党から改新党の方針に賛成を取り付けるよう指示した。その国会運営方針は、野党に有利で、与党に厳しいものなので、出席していた野党の国体委員長たちは驚いた。反対する理由はどこにもない。すんなりと各党の賛同を得て、方針はすんなりまとまった。
 具体的な合意内容は、質問の詳細な事前通告は不要にするということだ。質問に関連する省庁の担当部署の官僚には出席を要請する必要があるので、それに必要な大まかな項目だけ事前通告すればよい。そうすることで、大臣が答弁するための膨大な資料を官僚が準備する必要はなくなる。ざっくりした項目だけの通告では、準備しようにもできないからだ。
 一方、質問者は、答弁者の指名をしないことで野党も合意した。大臣が答えられなければ、官僚に答弁させるなど、誰が答弁するかは回答側に委ねるということだ。
 これだけのことで、国会運営は大きく変貌した。官僚は、大臣が回答するための資料の準備という苛烈な業務から解放された。これまで、大臣の答弁のための資料を、徹夜で準備することが常態化していた。
 大臣は、行政の詳細は無理としても、担当分野の政策の理念や骨子は頭に入れておかなければ、国会答弁で醜態をさらすことになる。当選回数の多い古参議員に大臣のお鉢が回るような順送り閣僚人事は、もはやできなくなった。
 結果、国会議員は、それぞれ自分が政策通と言われるほど精通した分野を確立する必要があり、精力的にその分野を勉強するようになった。首相は、能力的にもっともふさわしいと判断した人材を大臣に指名すれば、所管する分野に精通した人物が長期にわたって大臣を務めるという健全な姿が実現するはずだ。

 こうして、議会運営の骨格が定まり、これから多くの法案が矢継ぎ早に審議されることとなる。