続 コーヒーカップの耳
3「チョコレート」
日本が負けて 進駐軍の車が毎日毎日いっぱい連なって通りよった。ある日 一台のジープが道端に停まって 兵隊がパラパラと降りてきたんや。赤いのんや黒いのんがおって おまけにでっかいから 俺ら怖(こォ)うて 隠れて見とった。そしたら みんなで小便やったんや。日本人と同じ格好でしよった。ほんで行きしなに なにか捨てて行きよった。あいつらが捨てて行くもんの中にはけっこうええもんがあったんや。そやから俺ら 仔犬みたいに それ目がけて突進したんや。見たこともないきれいな缶やった。摩天楼の絵がカラーで印刷してあった。そろーっと開けてみたら クチャクチャの銀紙がいっぱい入っとった。チョコレートの包み紙やったんや。なんとも言えん エエ匂いしよんねん。鼻近づけたら気ィ遠なりそうやった。長いこと匂たらあかん 匂いが消えるゆうて ちょっとずつ順番に匂いかいで すぐ蓋しとくねん。俺らみんなの宝物にしたんや。