「チョコレート」 | 喫茶店の書斎から

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コーヒーカップの耳


15年前に出した詩集『コーヒーカップの耳』の縁で今日、ある人とお会いすることになっている。
実はあの詩集を出した後、やはり「コーヒーカップの耳」は続きを書いていました。それは詩ではなくエッセイの形で。
タウン誌に連載させてもらったのだが、毎月一篇。100回まで書いた。
思い出してパラパラ見ていたのだが、面白い。
あのころのうちのお客さんは本当に面白かった。
文章の中から一部紹介しましょう。


「日本が負けて、進駐軍の車が毎日毎日、いっぱい連なって通りよった。ある日、一台のジープが道端に止まって、兵隊がぱらぱら下りて来たんや。赤いのんや黒いのんやおって、おまけにでっかいから俺ら怖うて隠れて見とった。そしたらみんなで小便やったんや。日本人と同じ恰好でしよった。ほんで、行きしなに何か捨てて行きよった。俺ら、仔犬みたいにそれ目がけて突進したんや。見たこともないきれいな缶やった。摩天楼の絵がカラーで印刷してあった。そろーっと開けてみたら、クチャクチャの銀紙がいっぱい入っとった。チョコレートの包み紙やったんや。なんともいえんええ匂いしとんねん。鼻近づけたら気ィ遠なりそうやった。長いこと匂たらあかん、匂いが早よ消えるゆうて、ちょっとずつ順番に匂い嗅いで、すぐ蓋しとくねん。俺らみんなの宝物にしたんや」
 この子どもたちを抱きしめてやりたくなってしまう、なんとも愛(かな)しい話ではないか。