『あん』読後 | 喫茶店の書斎から

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コーヒーカップの耳

あっという間に読み終えた『あん』(ドリアン助川・ポプラ社)だが、良かった。
わたしこれまで、ドリアン助川さんのものは読んだことがなかった。お名前を存知上げていただけで。東北の道化師、森文子さんを通じて、この度読む気になったのである。最近読むことのない小説である。

過去を持つどら焼き店の若いマスターと、ハンセン病患者であったお婆さんとの交流が物語の中心にある。
テーマは重い。どうしても暗いものを予想してしまう。
が、読み始めてすぐに、これは面白い、と感じた。
文体が明るい。物語の進展をかすかに予想させながら話は進む。安心感がある。
それでいてドラマがある。ワクワクさせるところもある。
でも、やはりテーマは重い。
ハンセン氏病のことは、わたしにもある程度の知識があった。
が、多くの知らなかったことをこの本で教えて頂いた。
たしかに辛い話もあるのだが、なぜか明るさがある。
これは筆者の人格によるものかもしれない。人生観によるのかもしれない。
終盤はやはり涙を抑えることが出来なかった。静かに胸の奥から押し寄せるものがあった。
それでも明るいのである。そして、なぜか、読む者に勇気を与えるのだ。全く関係ないような老齢のわたしにも「まだまだ頑張れる」という希望を与えてくれる。
お勧めです、この本。Img169