『完本コーヒーカップの耳』より抜粋。
「テツ」。
俺のテツ 治らん病気になってしもて あんまり可哀そうやから 安楽死させてやってん。
俺の腕の中で ゆっくり眼ェ閉じて 安心して死んでいきよった。
ほんまにあいつは 俺が飼うた犬の中では いっちゃん根性あった。
犬のくせに拗ねよった。
強う叱ったら 庭の隅っこへ行って あっち向いたまま いつまでも置物みたいに動きよらへん。
エサやっても見向きもしよらへん。
しばらくして「悪かったなあ」ゆうて抱いてやったら やっと機嫌直しよった。
ダンボール色の秋田犬は値打ちないて言われて 品評会で負けた時も 俺は可哀そうに思たけど テツは そんなもん関係ないゆうて 知らん顔しとった。
堂々としとった。(助代さんの話)