「こんにちは。」
「・・・コンニチハ・・・(カタカタカタ)」
「す・て・き。」
「・・・ス・テ・キ・・・(カタカタカタ)」
「あなた、かわいいねぇ。」
「・・・アナタ、カワイイネェ・・・(カタカタカタ)」
「あははは。」
「・・・アハハハ・・・(カタカタカタ)」
・・・・・・
両手のひらの上に乗った小さなリスが、身体を小刻みにゆすりながらおしゃべりを返してくれる。
なんともかわいらしい。
たったこれだけの会話なのに、私は満面の笑顔である。
思わず噴き出す笑い・・・それも同じに、リスが笑う。
端から見たら、絶対におかしい。
届いた小包の梱包を解き、電池を入れてスイッチを入れた途端、いきなりこのおしゃべりが始まった
のである。
たまたまテレビで紹介されていた玩具が、あまりに素敵で、ついネットで注文したのだった。
話しかけると、オウム返しに1オクターブ高いかわいい声でリスがしゃべる。
たったこれだけのことなのに、その声や仕草が実に愛らしい。
本当に、よく出来た玩具だ。
部屋にやって来た主人が、何事かと声をかける。
「きみ、何やっとるん?」
「・・・キミ、ナニヤットルン?・・・(カタカタカタ)」
「何、それ?」
「・・・ナニ、ソレ・・・(カタカタカタ)」
「うふふ、かわいいでしょ。買っちゃった。」
「・・・ウフフ、カワイイデショ・・・」
「ばかじゃ。」
「・・・バカジャ・・・(カタカタカタ)」
「あはは。・・おい。」
「・・・アハハ・・オイ!・・・(カタカタカタ)」
・・・・・・
リスを手に取り、ソファに座って、話しかける主人。
「わ~。」
「・・・ワ~・・・(カタカタカタ)」
「ぎゃ~お。」
「・・・ギャ~オ・・・(カタカタカタ)」
「ふぎゃ~。」
「・・・フギャ~・・・(カタカタカタ)」
・・・・・・
「あははははは。あなた、他にしゃべる言葉はないんね?」
「・・・アハハハハハ・・・アナタ、ホカニシャベルコトバハナインネ・・・」
「うひゃははは。」
「・・・ウヒャハハハ・・・(カタカタカタ)」
・・・・・・
全く、玩具を前にして、この言葉の貧困さ、ね。
私たちは、しばらく、この可愛らしいリスを手に取り、変な訳のわからない会話を続けたのだった。
スイッチを切ると、小さく丸くなってこちらを見ている。
「ね。かわいいでしょ~。」頭をナデナデしながら、リスを抱きしめる私。
「きみ、ヘンよ。擬人化しちゃって。たかが玩具。単なるモノじゃん。」
「あなたこそ変。こ~んな可愛いのに、モノだなんて。」
「単なる機械よ。録音した音声を返してるだけじゃん。」
「それにしては、しゃべってたねぇ。」
「・・・会社に、持って行こうかな。」
「あはは。どうぞ、どうぞ。みんな、『かわい~』って言うよ~。」
・・・・・・
確かに、単なる機械ではある。
しかしながら、疑似コミュニケーションであっても、言葉のやり取りができる機械は独特の存在感がある。
もっというならば、そのおもちゃ自体が、あらたなコミュニケーションを呼ぶ可能性さえあるのだ。
時代は確かに変化した。
ニュースでは、ロボット分野の劇的な進歩が伝えられている。
世界初の感情認識ができるパーソナルロボットのペッパー君は、商業ベースに乗って売り出されるまでに
進化した。
つい先ごろオープンしたハウステンボスの『変なホテル』では、ロボットが人間の対応をしているのだ
という。
以前、一世を風靡したコミュニケーションロボットのアイボ君は、メンテナンス期間が終わっても、
「ロボット愛玩犬」としての存在感の強さを示した。
こんな情報を見聞きするにつけ、これからの世界がどれほどの変化を遂げるのだろう、とワクワクした
気持ちになるのである。