食あたり | くにこ先生のコーヒーブレイク

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通りすがりのあなたに、心に残るお話をひとつ

 朝、4時を過ぎた頃だった。
 やっと、ベッドに入って眠ろうとしていた矢先、隣で眠っていた主人がいきなり身体を起こした。
 おもむろにベッドに腰をかけて、身体は前傾になっている。
 私は、主人が、いつものように、トイレにでも起きたのだろうと、うつらうつらしながら目をつぶった。

 ところが、何だか様子が変なのだ。
 彼は微動だにせず、動きが止まってしまっている。
 そして、

 「うー。」
 
 ・・・うなっている。

 「どうかした?」
 「・・・・・」返事が無い。

 まあ、いつものことか。
 私は、またまた眠りに落ちた。

 「はら、いて。」

 声がすると同時に、彼は立ちあがって、トイレに直行した。


 しばらくすると、彼はふらふらと戻ってきた。
 もう眠っているどころではない。

 「大丈夫?」
 「大丈夫じゃない。・・・下痢した。何かにあたったんだ。」
 「えー、私たちと同じもの食べたのに。あなた、何か他に食べたっけ・・・。」
 「瓶詰めの何か訳わからんもんのどれかじゃ。」
 「はぁ?瓶詰めって、海苔とかでしょ。まぁだ、大丈夫の筈だけどなぁ。・・・あ、カキじゃないの?
  あなた、生で食べてたでしょ。」
 「そうかもしれん。・・・トイレ。」
 ・・・・・・

 お酒のつまみに、確か、彼がスーパーで買ってきた地ガキを食べていたっけ。
 私たちと違う食べ物で、食あたりしそうな食べ物って、それ以外考えられなかった。

 「吐き気はあるの?」 
 「吐くほどじゃない。」
 「病院に行く?」
 「行かん。」
 「下痢だけなん。脱水になんないように、何か飲まなきゃ。」
 「うー、茶、くれぃ。」
 「はい、はい。」
 ・・・・・・

 まぁ、こんな調子で、彼は夜が明けるまで、トイレとベッドを往復したのだった。



 そして、約2日間、彼は、全くの病人のようになってしまった。
 幽霊のように力なく、ぼうっと、のろのろと家の中を歩いている。
 少しずつ回復しているのか、トイレの回数も減って来ているようだし、出るものは出てしまったと、
 いうような印象であった。
 後は、時間薬、ということで、回復を待つのみ。

 しかしながら、日頃病気には縁のない毎日を送っていた主人にとっては、一大事なのだった。

 「梅干、美味しいの買ってきてよ。」(紀州南高梅の超上等を買ってきてあげた。)
 「りんご、ない?」(リンゴはすりおろしてベッドまで。)
 「お粥だったら、食う。」(お粥を作る。)
 「トマトは?」(甘いアイコトマトを用意。)
 「茶、ポットに入れといてよ。」(保温性水筒をひっぱり出して、彼のもとへ。)
 「(いろいろ、いろいろ)。」(注文通りにやってあげる。)
 ・・・・・・

 なんてね、うるさいのなんの。

 私が体調を崩した時は、ひたすら周りにツライのを隠して、調子良くふるまおうとするのだが、その真逆の
 対応に、こちらは戸惑うばかりなのである。
 (多分、病人としては、彼と私のちょうど中間くらいがいいのだろうけれど。)


 お産で里帰りしていた娘が、無言・無表情で部屋を通りすぎていく彼に言う。

 「あはは、とうさん、ゆうれいみたいよ~。」
 「・・・・・」
 「ありゃりゃ、言葉も出ないよ。」
 「ほーんと。いつ普通に戻るんだろーねー。」と私。
 「・・・・・」

 ぼーっとこちらを向いて、ただ去っていく主人。
 まるで、漫画のようだ。
 (後から聞くと、「うつしたらいけないから、近づかないように用心していた」らしい。)


 彼は、ここ半年くらい、ロングブレスダイエットとかで数キロを減量した。
 ふっくらしていた頃は、身重の娘と並んで同じくらいの大きさのお腹を披露していたのに、最近では、
 ズボンにもゆとりが出てきている。
 まだ、肥満体形なのに変わりは無いが、ずいぶんとすっきりしたね、というのが周りの感想だった。

 ところが、この食あたりで、まる2日粗食を通したおかげで、ますますスマートになった。
 というか、やつれ細ったのだった。

 こんな減量は、よろしくない。
 顔までやつれているから、全く、よろしくない。
 ついでに機嫌までよろしくないから、周りまで気を使ってしまうのだ。



 さて、3日後、彼は無事、復活した。

 「あー、ひどい目にあったぁ。めし、ちょうだい。」
 「もう、いいの?」
 「うん。」


 恐るべし、食あたり。





(追記)
 今回、慌ててネットで「食あたり」を調べました。
 食あたりは、夏も冬もおこるのだそうです。
 脱水症状にならないよう、水分をたっぷりとって、ひたすら出してあげる。
 下痢止めは、飲まない。
 当然ながら、ひどい時は病院に行く。

 どうぞ、皆さん、お気を付けて。