いつもの教室。
私は教卓に主席簿を置いて、皆の方を向いて頭を下げる。
「おはようございまーす。あらら、まちがった。お昼でしたね。・・・こんにちは。」
「こんにちはぁ。」
一斉に声が返ってくる。
手元を見ると、あれ、なぜか教科書が見当たらない。
「あっちゃぁ。テキスト忘れちゃった。ごめん、すぐ取ってくるね。」
と慌てて言うと、また皆の笑い声が返ってきた。
と、
ジャーン、ジャジャジャ、ジャーン・ジャーン、ジャーン、ジャジャジャ、ジャーン・・・
いきなり流れる『威風堂々』の音楽。
「おっとっとぉ。どうも、これ、夢の中みたいですねぇ。失礼しましたぁ。」
「あっはははは・・・。」
皆の笑い声の中、私は目を覚ました。
枕元のケイタイが、朝の目覚ましアラームで、大きな音を出して震えている。
私は、ボウとしながら、ケイタイのアラームを切った。
あーあ。
夢の中でまで、教員やっちゃってるよ・・・。
夢の中で「夢の中」なぁんて言っちゃってるし、皆笑ってるし、すごいよね。
どうも私は、教員という仕事に、どっぷりとはまってしまっているようだ。
一日の大半を学校で過ごし、帰ってきてからも学生さんや授業のことを考え、十分すぎるほど仕事に時間を
割いているのに、夢の時間まで浸食されているなんて・・・。
まったく、どうなっちゃってるの。
こうして、私は、半ば感心、半ば呆れ気味に、布団からのそのそと起き出したのであった。
朝、主人を会社まで車で送りながら、つい、この寝起きの夢を思い出し、一人笑いをしてしまった。
「あっははは。」
「君、何、一人で笑ってるんかい。」
「いえいえ、なんでもないない。ちょっと、今日の夢、思い出した。」
「ふうん。」
「それにしても、今日、すごく寒くない?」
・・・・・・
本当は、内容を逐一説明したかったのだけれど、「話してしまうと、彼がこのブログの文章を読んでも
面白くないだろうなぁ。」なんて考えて、私は、すぐに違う話に切り替えたのだった。
(全く、ブログを続けるのも善し悪しだな。)
そういえば、主人が見た夢の話をするのを聞いたことがない。
夢なんて、ただの頭の中の荒唐無稽な「おはなし」みたいなものだから、彼にとっては話題にもならないか・・・。
もっと言えば、彼の仕事や職場の話もほとんど出てこない。
まぁ、これは私が聞いても「理解不能」だから、話す気にもならないのだろうが。
私が、学校のことをべらべらしゃべるのとは正反対だ。
車の窓から空を見上げていた主人が、つぶやく。
「あーあ、今日なんて、いい釣り日和だよ。」って。
「寒すぎるんじゃ?」と私。
「ちょうどいいよ。潮もいいし、今週末あたり、釣りに行こうかなー。」
「寒いし、風邪ひくよー。」
「風邪なんて、ひかない。君、土曜日、車貸してよ。」
「えー、今度の土曜日はムリぃ。」
「・・・あー、海がワシを呼んでいるー。」
「呼んでない、呼んでない。」
「呼んでるー。」
「呼んでません。」
「メバルとか、美味しいよー。釣れるよー。」
・・・・・・
今日の彼の頭の中は、釣りのことでいっぱいのようだった。
私が、夢の中でも教師をやってるなんて言ったら、「しょうもな。」なんて言葉が返ってきそうだ。
こうして話しているうちに、車は彼の会社の前。
「釣り、釣り。」と言いながら、主人は出勤していったのだった。
さて、残念なことに、この寒さの中、ほとんど風邪をひいたことのない主人が、風邪にかかってしまった。
ごほごほと咳き込み、鼻をズルズルいわせている。
「鬼のかく乱だぁ。だけど、すぐ直るよ。卵酒飲めば。・・・作ってよ。」
と大騒ぎだ。
しかし、卵酒ではどうも効き目が弱かったようで、数日は調子が悪そうだった。
おかげで、週末の釣りは無くなってしまった。
それでも、次の週は「釣りに行く」とはりきっている主人なのである。
だけど、まあ、夫婦であっても、なんと考えることって違うのだろう。
趣味の話、仕事の話(これはほとんど私)、世の中の出来事、宇宙の話、パソコンの話、天気の話、美味しい
食べ物のこと、子どもたちのこと、等々。
思い出してみると、いろいろ話はしているのだけれど、お互い、ずい分違った発想をしているものである。