プラネタリウム2010夏 | くにこ先生のコーヒーブレイク

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通りすがりのあなたに、心に残るお話をひとつ

 小惑星探査機「はやぶさ」に、すっかり魅せられてしまった私は、星が見たくてたまらなくなった。
 日常の生活に追われて、星空のことなんてすっかり忘れていたのだ。

 透けた夜空の向こうに広がるのは、大宇宙。
 空は、一体、どんな星々で埋め尽くされているのだろう。

 だが、夜空を見上げるものの、梅雨を迎えた熊本では、それ程の美しい星空は望めない。
 たとえ晴れていても、うす雲がかかり、街の明かりでほんのり白く見える夜空には、数えられるほどの
 星しか見えないのである。
 加えて、最近、視力が落ちたのか、1等星や2等星くらいの星しか目に入らなくなってしまった。

 本当は、もっと空いっぱい沢山の星があるんだ・・・、と想像してみるものの、どうも現実味がない。


 土曜日の、久しぶりにまったりとしたお昼時。
 ネットで「はやぶさ」の記事を読みながら、太陽をめぐる惑星のことを考えていた。
 今、金星や火星って、どの方向に見えるのだろう。
 全く、そんなことさえ、分からないなんて。

 そうだ、プラネタリウムに行こう。

 子どもの小さい頃は、毎年、春夏秋冬の上映に合わせて出かけていたっけ。
 最近では、すっかり疎遠になってしまったが、久しぶりのドームも懐かしいじゃないの。

 急に思いついて、ネットで上映予定を調べてみた。
 なんと、あと10分で次の上映が始まるとの案内。

 「ね、私、プラネタリウムに行ってくる。」
 「は?」

 一緒に横でテレビを見ていた主人が、あっけにとられたような顔をして、いきなり立ち上がった私の方を
 見ている。
 急に、何を言い出すんだろう、と思ったよね・・・。

 「あなたも、行かない?」
 「いい。行かない。」と即答。
 「えー、おもしろいよ。」
 「いい。君、行ってきたら。」
 「うん、行ってくる。じゃ、ね。」

 あっという間の出来事だ。いろいろどうしようか、なんて考える暇がなかったのがよかった。
 ゆっくり時間があったら、あれこれ「やらなきゃいけないこと」を探し出してしまうに違いないもの。

 とにかく、時間が迫っていたから、横に置いてあったバッグをつかんで、私は車に乗り込んだ。
 博物館までは車で2分。
 駐車場に止めると、あと5分で始まる時間。
 おばさんが走るのもみっともないなぁと思いながら、でも、思いっきり走っていた。


 息せき切ってプラネタリウムに辿りつくと、200席ほどあるうちの30席ほどが埋まっている。
 シンとした薄暗い部屋。
 頭の上に大きく広がった灰白色のドーム。
 中央の星を映す天象儀(てんしょうぎ)。

 息を整えて、中央通路の端の席にそっと腰をかけると、深く沈みこんだ席の背もたれが大きく後ろに傾いた。

 そうだったね、この椅子。

 後ろに倒れた背もたれに首を乗せると、上に広がるドームが覆いかぶさって見えるのだ。


 席に着くと間もなく、上映が始まった。
 解説をしてくれる若いお姉さんの声が、場内に響く。
 以前は、朴訥とした語り口のおじさんだったが、ここも世代交代したのかな。
 お姉さんの話は分かり易く、丁度良いスピード動く天空の矢印を見ながら、久しぶりのプラネタリウムに、
 見入ってしまった。

 東の空高く、夏の大三角のベガ(こと座)とアルタイル(わし座)、そしてデネブ(はくちょう座)が光っている。
 南には、赤いアンタレス(さそり座)と横の南斗六星。
 北の北斗七星。
 
 いつも見るおなじみの星だが、あらためて星座の絵と重ね合わせると、また違ったものに見えて来る。

 昔の人たちは、ありあまるような想像をめぐらし天に絵を描いていたのに違いない。
 そして、天の星のメッセージを読み取ろうとして、占星術を発展させたのだ。
 不思議な空間、不思議な力。
 人々が星に魅せられるのも、きっと、この神秘性に由来するのだろう。

 それでも、星は物理の法則に従って、ただただ動いているだけなのだ。
 だから、星々は時が刻まれるのとともに、予定通りの運航をする。

 直径たった300メートルしかない惑星イトカワに「はやぶさ」が辿りつけたのも、その法則通りの動きと、
 緻密な観察、そして計算の結果なのである。

 天空にきらめく星も、その一つ一つが、悠久の時を刻みながら、ただひたすら動き続ける。
 生き死にを繰り返す。
 そんな無機質の自然現象に、私たちは人間の人生を重ね合わせ、意味を見出すのである。

 何故だろう。

 人間って馬鹿だなぁと思いながら、それでも、私自身、星に癒しを求めたりしているんだから、なんとも
 言いようがない。
 プラネタリウムに行くのだって、同じか。


 色々なことを考えているうちに、上映は終わってしまった。
 暗闇に慣れた目には、薄明るい天井の光が優しい。
 あらためて、あんなにたくさんの星々が空にあることを思い出した。

 やっぱり、私たちは、地球という「星」の住人なのだ。
 非日常って、ステキ。


 明るい外に出ると、警備員のおじさんが、誰かが落とした車のキーを頭の上にかざして、
 「落とした方おられませんかぁ?」と尋ねている。
 プラネタリウムから出てきたばかりのお母さんが、眠たそうな子どもの手をひっぱっておじさんの方に
 走って行った。

 やれやれ、帰ったら御夕飯の買い物に行かなくちゃ。