シロアリ騒動② | くにこ先生のコーヒーブレイク

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シロアリ騒動◆\莉気梁海です(*^_^*)


 畳替えに予想以上のお金を使ってしまった私たちは、シロアリの駆除にかける余裕がなくなってしまった。
 しかし、薬を置くだけでウン十万もするものなのだろうか。
 業者さんが持ってこられた明細を見ると、薬代が□十万円、とある。
 
 小さな箱に入った薬が□十万円なんて、いくらなんでも高すぎるのでは。
 他の諸費用で◇十万近くが計上されているけれど、どうしても納得できない。
 素朴な疑問にはじまったこのシロアリ駆除。
 薬についても、やたらと調べまわることになった。

 幸いにも我が家の柱は、シロアリの被害は最小のようである。
 今のうちなら、何とか手が打てるはず。
 市販の薬を調べてみると、約10分の1以下の値段で十分な量が変えることが分かった。

 自分たちでも、もしかして、シロアリを退治できるかも。
 主人は、ちょっと身体が大きすぎて床下は無理かな。

 だったら、私が床下にもぐろう。


 娘に話すと、「母さんがもぐるなら、わたしももぐってみたい。」と言う。

 とうとう2人でシロアリ駆除に挑戦することにした。
 早速、生活雑貨のお店に行くと、薬は難なく手に入った。
 散布する薬と違って、ただ置くだけのこの薬は、箱に入っていて、薬剤が飛び散ることもなく手に付くことも
 ない。

 何度も何度も説明書を読み重ね、蟻の道のどこに薬の箱を設置するのか、どうやって確かめるのか、
 シミュレーションを繰り返す。

 考えるうちに、何となく床下にもぐることに、冒険心というか、好奇心というか、妙なドキドキ感が生まれてきた。

 1週間後にもぐろう。

 明るい懐中電灯、薬の箱、薬にいれる水、小さなヘッドライト、マイナスドライバー、マジックインク、
 ガムテープ、マスク、そしてこれらを入れるボックス。

 ちょっとした探検のようだ。
 日に日に充実していくグッズを見ながら、結構やる気はマンマンになってきていた。


 さて、当日。
 一緒にもぐると言っていた娘は、なんと、急用が出来てもぐれない、という。
 ・・・・・。
 1週間延ばすのも、アリの活動が気になってしかたがないし、一人で、とりあえずもぐってみよう。
 薬剤を設置して、1週間後に再び確認の作業をしなくてはいけないから、その時に二人でもぐればいいこと
 である。

 急遽、娘に借りたジャージを着込み、タオルのキャップを被り、その上にライトを取り付け、運動靴を用意した。
 ソファに腰かけていた主人はちょっとハイになった私が物珍しいのか、携帯のカメラを向ける。
 笑顔でピースサインを出して、さあ、床下へ。


 台所の端にある地下収納庫の扉を開けて、中のボックスを取り出すと、もうそこは床下の入り口である。
 新聞紙を入り口にひいて、前々から用意していた道具のボックスを置いて確認する。
 まず床下に明るい置き型のランプを置いた。
 青白い光は美しいが、照らし出された暗くひんやりした床下の穴は、結構気持ちが悪い。

 恐る恐る入ると、思いのほか床の高さは低かった。
 業者さんの明細に書いてあった床の高さ45センチ以上という記載を思い出したが、どうも実感としては
 それより低いのではないかという感じなのだ。
 床下にかがみ込んで遠く広がる空間に目をやった途端、さっきまでの高揚した気持ちは、いっぺんに萎えて
 しまった。

 「こわ。」

 天井が低すぎる圧迫感は、今まで経験したことのないものである。
 最初の関門は、隣のブロックに移動するときの上の柱の低さだった。
 斜めに補強された柱と柱の間の上に渡された横の柱の幅の分、天井が低いのである。
 
 予想では、四つん這いになって何とか移動できるかなぁ、と思っていたのだけれど、甘すぎた。
 移動には、匍匐(ほふく)前進しかない。
 狭い空間で、腹ばいになるのも、なかなか辛い。

 やっと足を延ばして次のブロックに進んだ途端、横のコンクリートの壁に蟻道を見つけた。
 先日、業者さんが大画面のテレビに映し出した「でっかい」蟻の道である。
 ところが、実際の大きさは、ほぼ幅2・3センチほどの小さなものだった。

 映像とは恐ろしいものだ。
 業者さんが突っついて壊したところもそのまま残っていた。
 同じ場所をマイナスドライバーでそっと触ると、ぽろぽろと蟻の道は崩れていく。
 崩された蟻道の中をのぞくと、数ミリしかないような橙色の頭の蟻がぞろぞろと3列ほどにつながって
 移動しているのが見えた。

 「わぉ、きもちわるっ。」

 思わず一人で呟いた。
 それでも、やることをやらねば。

 何度も繰り返し読んだ解説書通りに薬剤の入った箱を取り付ける。
 業者さんが「置く」と調査報告・見積書に明記してあった場所である。

 どうぞ、どうぞ、これが効きますように。

 横になったまま、何とか作業を終えると、そのまわりの広がる床下を見回した。
 少しばかり埃は積もっているし、工事のときの遺物の段ボールの切れはしとか木くずとかが見えるけれど、
 クモの巣が張っているわけでもなく、ただ暗くシンとしたコンクリートに遮られた空間。

 それにしても、広い。
 広すぎる。

 もそもそと次のブロックまで1メートルほど移動したものの、それから続くいくつものブロックを越えて
 家の端っこまで移動する勇気はとても起きなかった。
 ふと横を見ると、小さなクモの抜け殻がふわりと動く。
 手に持った懐中電灯の光に浮かぶ細かな浮遊したゴミ。
 うんと遠くに、柔らかな光のさしこんでいる通気口の鉄柵が見える。

 ・・・やだ。
 もうだめだ。

 気持ちがすっかり萎えてしまった私は、もうそれ以上、進むことができなかった。
 方向転換をしてやっとのことで、ぽっかり空いた地下収納庫の入口まで匍匐で戻る。
 這い上がるのもやっとだった。

 あぁ、戻ってきた。

 そこいってほんの数メートルをくるりと移動しただけの自分に気がついて、何とも情けなくなった。
 なんという、軟弱さ。
 入り口に敷かれた新聞紙の上にへたり込み、ごほごほと咳き込んだ。
 咳き込みすぎて、ウェッと吐き気までする。

 あんなにウキウキと出かけたのに。

 ふと、頭に付けたライトのスイッチを入れるのを忘れてしまっていたことにまで気がつき、さらに落ち込む
 始末となったのである。

 業者さんって、これが仕事なのか。
 ・・・エライ。


 話をすると、みんな笑っている。
 泣きたいくらいだったんだよ、私。
 あーあ。


 もうすぐ、1週間目がやってくる。
 私はもう一度はいる元気がないのに、娘は、横で妙に張り切っている。



*シロアリ騒動△里弔鼎を少し

  1週間後、娘と床下にもぐった。
  薬の箱には、シロアリが数匹うろうろとしていた。
  なんとか「初めの一歩」には成功したみたい。
  ・・・とりあえず、よかった(^^)
  でも、先の長い話、である。

  先日本を読んでいたら、シロアリはアリの仲間ではなく、ゴキブリの仲間なのだ、と書いてあった。
  ものすごくショックだった。
  そうだったんだ・・・。
  頭の中で、シロアリの橙色の頭と白いカラダが、ゴキブリのテカテカの羽と重なった。