長く続くテーマパークって | くにこ先生のコーヒーブレイク

くにこ先生のコーヒーブレイク

通りすがりのあなたに、心に残るお話をひとつ

 まだ4月にもかかわらず、熊本では最高気温25度を超すという夏日が続いている。
 日中照り返しの強いところだと、ゆうに30度を超す暑さである。

 この日、久々に帰省した娘が「どっかいこうよ。」と誘ってくれた。
 「美味しいものを食べて、ちょっと遠出する」という素敵な計画に、私はすぐ乗ってしまった。
 ちょっと郊外の小さなレストランでランチを食べた後、娘が「これからいいところに案内してあげる。」
 という。
 運転は娘がやってくれるらしい。

 「どこ、いくん?」
 「ないしょ。」
 「どっちの方?」
 「菊池。」(熊本県の北部、菊池川の上流にあたる山々の連なった場所である。)
 「菊池渓谷?」
 「ううん、違う。だから、ないしょだって。」
 「ふうん。」

 ナビに電話番号を入れた娘は、楽しそうに運転している。
 市街地から遠く離れ、周りでは一面輝くような若葉の緑が揺れ始めた。
 阿蘇外輪山の広大な山々に連なって美しい高原が広がっている。
 眼下に菊池平野が見渡せる景勝地だ。

 「ちょっといいんじゃない。」
 「でしょ、でしょ?」
 「で、どこいくの?」
 「・・・ないしょ。」

 車は山の中に入り、曲がりくねった細い道を進んでいる。
 道路脇の木々が生い茂り、緑色のトンネルが続く。
 目的地がわからないので、やたらと遠くに来たような「気」がした頃、娘が「ここだよ。」と車を止めた。
 
 枝を広げた木々の生い茂った緑の視界が急に開け、空が大きく広がった。
 フラワーヒルと名前の付いた民間経営の花畑テーマパークである。
 広大な敷地いっぱいに季節の花々が植えられていた。

 暖かくなって花が揃ってきて、つい最近開園したばかりなのだ、と娘が話してくれた。
 山奥なので、市街地ほどの暑さは感じられず、心地よい気温だった。
 あの下界の暑さが嘘のようである。
 公園の中の周りを取り囲むような斜面にはピンクと白の芝ざくらが敷き詰められていた。

 チューリップや小さなバラやレンギョウ・・・色とりどりの花がみごとに美しい。
 「きれいだねぇ。」・・・私たちは花の中を散策した。


 子ども連れのお母さん、若いカップル、中年のおばさんグループ、お年寄りと一緒の家族、・・・、
 実に様々な人たちが集っている。
 皆、いったいどうやってこんな施設を知るのだろう。
 ネットがあるから、情報はすぐに手に入るか。
 それにしても、ずい分辺鄙なところに作ったものである。余計な心配もしてしまう。

 「こんな遠くに作って、大丈夫かな。」
 「えー、そんなに遠くないよ。」

 旅慣れた娘は簡単に言う。
 旅の大好きな娘にとって1・2時間のドライブで行けるところは「近い」らしい。
 だが、最近になって車に乗り始めた私にとって、この距離は相当「遠い」。
 なにせ、私の小さい頃は、熊本市から阿蘇や天草に行くのは大旅行で、何日も前から汽車(!!)やバスの
 時刻表を使って計画を立てねば行けなかったからである。
 そう考えると、この地は、ちょっと思い立って行くような場所ではない。
 今では、車があるからこんな場所でも、それ程抵抗なく行くことができるのだろう。

 ただ、どんなに簡単に行くことができるとしても、施設が長く存続するにはそれなりの魅力がなければならない。
 地域の活性化をねらった取り組みに、最近は皆ずい分と力を入れているようである。
 この公園も、結構来園者も多かったし、お年寄りもおられた。
 しかし、どう考えてみても、この施設に来るには「車」しかない。
 人里離れた様々な施設にわざわざ「車」で足を運ぶには、強烈な魅力が必要だろう。


 「きれい」「きれい」と続けざまに言い合うほど、お花畑はとても大きく綺麗で、ゆっくり眺めれば数時間は
 過ごせるような場所だった。
 季節ごとに花が変わっていくのだという。
 お花の好きな人にはたまらない公園である。
 だが、あまりに広く、山の斜面まで利用してある公園だったのでお年寄りにとっては周るのが大変そうだった。

 「歩く歩道があればいいのにね。」
 「って、動く歩道でしょ。」
 「あはは、そうだった。でも、皆しょっちゅう来るのかな。」
 「どうかなぁ。お花はきれいだけどねぇ。」
 「お花だけじゃなくって、何かもう一つあるといいよねぇ。」
 「うーん。なんだろ。」
 「すっごく美味しいレストランとかさ。」
 「いいねぇ。花の料理とか、宣伝しちゃって。」
 「花のコース料理なんてどぉよ。」
 「うー、きれいだけど、やっぱ、肉がいいね。」

 花を「見る」公園なのに、すぐ思考が食べ物に行ってしまう。
 花より団子、色気より食い気になってしまうのが情けない。
 だが、娘とは結構この食べ物の話で盛り上がってしまった。

 「花のアイスクリームなんて、どぉ?」
 「いいかもー。」
 「・・・あー、あるある。アイスクリーム!!」

 なんと、園内の休憩所に行くと、アイスクリームの看板がある。
 見ると、桜やバラのアイスクリームまで・・・。
 考えることは、皆一緒か。

 売店には、阿蘇の牛乳を使ったというアイスクリームが並んでいる。
 この公園の花を使ったアイスクリームは、色とりどりでとてもきれいだ。
 私は、花の味よりラムレーズンがいいな。
 娘はサクラを食べてみると言う。

 「わ、おいし。桜餅の味がするって。」

 娘が一口分けてくれた。
 美味しい。

 コーンのカップに盛られたアイスクリームは、陽光を浴びてうっすらと溶け始めた。
 そして、アイスクリームはほんの数分で無くなってしまった。


 アイスクリームで人集めって、やっぱり、ちょっと無理かな。
 郊外のテーマパーク。
 これからは集客のあり方が問われそうである。