雷 | くにこ先生のコーヒーブレイク

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通りすがりのあなたに、心に残るお話をひとつ

 先日未明、熊本の空には雷が鳴り響いた。
 その日、いつものようにかなり遅くまで起きていたのだけれど、急に眠気が襲ってきて床に入った矢先だった。
 娘は、学校の課題があるとかで、リビングに残って勉強を続けていた時間である。

 夢を見ていた。

 子ども3人を連れて、近くの博物館にプラネタリウムを見に行った帰りのことである。
 子どもたちは、まだ小学生で小さい。
 急に大きな楠の葉の間から雨が落ちてきた。

 あらあら、雨になっちゃった。
 夕立だったらすぐに止むから、ちょっとここで雨宿りしようね・・・。
 大きな樹の陰に入って空を眺める。
 空も周りも、見る間に暗くなった。
 漏れ落ちてくる雨が、頭にあたる。
 何故か持っていた大きな大きな黒い傘をさして、子どもたちを中に入れた。
 途端に、稲妻が光った。

 キャー。
 こわいよー。

 子どもたちが大声で叫んでいる。
 大丈夫、でも、高い樹は危ないからそこの塀のとこに行こうね。
 光の中をやっとのことで、屋根のついた長塀の下に移動した。
 傘はいつの間にか無くなっている。
 塀にくっついた私たちは凍りついたように身動きが取れない。

 おかあさん、大丈夫だよ。
 といきなり大きくなった息子が言った。
 その割には大丈夫じゃなさそうな顔をしているけれど・・・。
 いやぁ、これじゃ帰れないねぇ。
 かあさん、スカートぬれてるよ。
 と日傘をさした娘。
 あれ、娘も大きくなっている。
 って、なんで日傘?

 ビカッ、ガラガラ・・・
 眼が覚めた。

 夢か。
 ベッドの上のカーテン越しに稲妻が光っている。
 大きな雨音。
 外はすごい嵐のようである。

 いきなり横で主人が起き上がった。
 「すごいねぇ。」と半分夢うつつで、つぶやくように声をかける。
 「落ちたぞ。」と言いながら、主人はいきなりビャンと飛び起きて部屋の外に出て行ってしまった。
 
 どこに行くのかなぁ、とぼんやり考えるが、眠い。
 もう一度、ゆっくり眼を閉じる。
 途端にまた、ビカッと稲光。
 間髪をいれずドーンという音と地響き・・・。
 今までに無いような連続の雷である。
 一体、どれほど続くのだろう。
 眼を閉じそうになると、閃光がカーテンごしに部屋中に広がる。
 なんと、眼をつぶっていられなくなってしまった。

 私はいつも寝る時間が大変に遅いので、ベッドに入ると途端に深い眠りに落ちてしまう。
 ちょっと眼を閉じて開けるともう朝、という毎日なのである。
 それなのに、眠れない。
 恐ろしい光と音のすごさに、強靭な私の眠りの力も敗れてしまった。
 付け加えて、その光と音にあわせた夢まで見てしまったのである。
 
 なんということだろう!!

 とうとう、横になっていることもできなくなった。
 ベッドの上に起き上がったが、部屋が断続的に明るくなるので、電気まで点けてしまった。
 今寝たのに、これじゃ、もう朝じゃないの・・・。
 
 「ありえない。」とつぶやきながら、ベッドを抜け出し、階下で勉強している娘のところに行って声をかけた。

 「すごいよねぇ。」
 「うん。」
 「眠れなくなったよ。」
 「ちょっと、すごいね。」

 ビカッ・・・ドドーン・・・

 そして、何故か稲妻が光る度に、なんとなく時間を計っている。
 「1秒で約340メートル」だから、ピッ・ピッ・ピッで1キロくらいかなぁ・・・なんて。
 でも、この日は、何度も何度も光るので、ずーっと時間の計りっぱなしなのである。
 他のことを考えようと思っても、どうしてもできない。
 薄いベージュ色のカーテンごしに強烈に光る稲妻のすごさに私達は声も失ってしまった。
 ただ、雨音と雷のコラボレーションにぼうとしているだけである。

 ビカ、ダーン。
 これはもう計りようもないほど近くだ。

 「落ちたね。」
 「うん、落ちたね。」
 「近くだよね。」
 「どこだろ。」
 やっと会話が続く。

 「ね、かあさん。雷ってどうして起こるん?」
 「雲って雨粒だからね。高いところでは氷の粒がこすれて帯電しちゃうんよ。
  で、マイナスの電気を帯びた粒が上の方に上がっていって、プラスが雲の下の方に分かれてくるんよね。
  そうやって電気がいーっぱいたまっちゃうと、雲の中とか地面との間で放電が起こるじゃん。
  それが、雷だよ。」
 「ふうん。」
 
 娘は、聞きながらも上の空で課題に取り組んでいる。
 雷の話とか、積乱雲の話とか、私はほんとは大好きなのでとっても話したかったのだけれど、娘はどうも
 相手にしてくれない。
 「またお天気オタクおばさんが話してるよ」という雰囲気なので、しかたなくここで説明は終わりにした。

 でも、積乱雲だからなぁ、そんなに長くは続かないよねぇ。と思うが、雷はそれからも鳴り止まなかった。
 ほんとうに限りなく続くような状況である。
 これじゃ、眠れないじゃん。
 テーブルについた肘に顎をのせて、光り続ける窓の外をカーテンごしに眺めているうちに、ようやく眠く
 なってきた。
 光や音にも鈍感になってしまったようである。

 「もう、寝るね。」
 「うん。」
 「おやすみー。」
 「おやすみー。」

 リビングの大きなテーブルに資料をいっぱいに広げた娘は、鸚鵡返しに返事をする。
 あの大きな音も強烈な光も、彼女の勉強のBGMなのかな・・・。


 寝室に戻ると、いつの間にか主人はベッドに戻ってしっかり眠っていた。
 おやおや。

 間隔は少しあいたようだが、まだ、窓の外では雷が鳴り続いている。
 あの雷にも動じないほど夢中になれる勉強って、よっぽど面白いんだろうなぁ、と考えながら目を閉じた
 途端、携帯の目覚ましアラームが鳴り出した。



 この日、熊本の上空には大陸からひどく冷たい空気が入り込んできていたようである。
 それで、下の暖かい空気が上に昇っていって巨大な雷雲をつくったのだ。

 それにしても、ものすごい雷だった。
 やっぱり、自然の力ってすごい。

 ちなみに、春夏の雷に限ると、熊本は宇都宮についで日本で2番目に多い地域なのだそうである。
 ・・・納得!・・・。