丘の上のベンチ | くにこ先生のコーヒーブレイク

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通りすがりのあなたに、心に残るお話をひとつ

 遠く、丘の上にベンチがひとつ。
 ゆっくりとした二人がけくらいの大きさかな。
 ゆるやかに丸くカーブした くし型の背もたれ。
 背もたれの木の隙間から見える雲の白さが眩しい。

 阿蘇の連なった山々を背景に幾重にも広がる草原の丘に、このベンチはあった。
 あの場所に間違いない。
 葉祥明さんの阿蘇の高原絵本美術館である。

 二番目の娘が一度は行きたいと思っていた場所なのだそうだ。
 日曜日を利用して、午後から阿蘇に二人でドライブに出かけ、この美術館を訪ねた。
 小さな美術館の建物は、広がる草原の中にぽつんと立っている。
 葉祥明さんの絵そのままをモチーフにしただけあって、まるで絵の世界に入ったような
 雰囲気である。
 遠くから見えたあのベンチは、美術館の外の丘の上にそっと置かれていた。


 車を買ってからというもの、なんだか違う楽しみ方が出来るようになってしまって、
 ちょっと浮かれているかなぁ、と反省気味の毎日なのだけれど・・・。
 お尻の重たい主人は、家でゆっくりしたいのだ、と部屋に引きこもっているので、
 いきおい娘たちとの外出が多くなる。

 この日、少しばかり曇っていたけれど、思いきって出かけて本当に面白かった。
 阿蘇なんてほとんど行ったことがなかったのに、知らないうちに素敵な場所がいくつもいくつも
 出来ている。
 観光地化しているのかなぁ、とも思う。
 だけど、それ以上に阿蘇の雄大さが勝っていて、ちょっとばかしお店やさんが増えても、
 それをものともしないような自然が広がっている。
 そんな自然に魅せられた人たちが集まって来て、山のあちこちに自分たちの夢を形作って
 いるのだろう。


 夢といえば、今、インテリア関係の仕事を目指している娘は、構図や形や色の配色にとても
 心が動くようである。
 葉祥明さんの絵では、空間の取り方や色使いが好きだという。
 毎年いただく葉祥明さんのカレンダーは、彼女の部屋に直行している。


 美術館の中の絵はやさしく、とても美しかった。
 画廊の中ほどのドアから外に出ると、小高い丘が広がっている。
 丘の真上にあのベンチが置いてあった。
 そこを切り取ると、彼の絵になるのである。


 さて、娘とは、街中を歩いても、お店に入っても、お食事をしても、その配置や配色の話になる。
 私も結構興味があるので、二人で何かと批評して盛り上がる。

「ここって、色の使いすぎだよね。」
「壁にこのタイルはまずいでしょ。」
「うーん。クロスの方が落ち着くよね。」
「色がさぁ、他と合わないもんね。」
「床とテーブルは感じいいのにね。」
「全体落ち着いた感じにするなら、壁はベージュ系か白ね。」
「床がこげ茶でシックだから合わせればいいのに・・・もったいないね。」
「客層が結構年配の人たちだから・・・」

 お料理の盛り付けがきれいだと、すぐにデジカメに収める。
「いやー。きれーい。」
「見ただけで美味しそうだよね。」
「見た目も、味だって。」
「そうだよねぇ。」
・・・・・・
「うん! やっぱり美味し。」

 きりがない。楽しい時間である。

 美しいものや色合いは、私たちの気持ちを豊かにする。
 何かあっても、心の和む空間は痛みを軽減する。

 そういえばドライブの前、頭が痛かったのに、すっかり直ってしまった。
 何かひっかかっていた気持ちも無くなってしまった。
 ・・・というより、何にひっかかっていたかも、阿蘇の景色を見ていたら忘れてしまった。

 単なる年のせいの物忘れか。

 いやいやいや、美しい景色や素敵な絵のおかげですよね。