待ち合わせ場所に行くとローズの姿がなかった。 いつも予定時間より早めに来ているローズがどうしたんだろうと心配していたら、いきなり後ろから目隠しをされた。 「だ~れだ、わかるかな?」 と小さい柔らかな手で自分の目を覆い隠した。 「わかるよ、ローズだろ」 「なんだ、つまんないや」 「つまんないはないだろう」 「じゃあ、こうしてやる」 といきなり自分の前のベルトのバックルを両手で持ったと思ったら自分を持ち上げようとした。 「ローズでは、力が無いから無理だよ」 と言うと 「できるもん」 と言ってなおムキになって持ち上げようとしている。 背中でローズの胸が当たっているのを感じながら、少し背伸びをしてあげた。 「ほら、できたじゃん」 「そうだね、すごいやローズは力持ちだね」 と褒めると得意げに 「sinの事なら何でもしてあげるから、まかせてね」 とうれしい一言を言ってくれた。 すごくうれしくて涙が出そうになりそうだった。 こんな、彼女にとって何気ない一言かもしれないが、ローズの国では、家族の絆は何よりも代えがたいくらい重いそうだ。 昔の日本ならそういう所は当たり前かもしれないが、最近は変わってしまったように思える。 ファミリーを大事にするローズの国では、唯一働ける女性がファミリーを支える。 それなので、日本で稼いだお金の大半はフィリピンへ送金する。 彼女も月に50万くらい稼ぐが手元には数万しか置かない。 彼女はこの日本で稼いだお金でフィリピンで家を建て、車を買い、畑も購入した。 まだ、26歳の若い女性なのに自分の事は後回しにして、ファミリーを第一優先に考える。 弟を大学へ行かせたいと、自分の少ないおこずかいから月々1万円を貯金して、それも送金する。 自分には出来ないことを彼女は当たり前だと言ってそれを行う。 国は違うけど日本の女性にこの様なことができるだろうか? 環境が違うのはわかるが、男の自分でさえ自分を第一優先に考えてしまうが・・・ ローズは本当にすごいと思うし尊敬するにあたいすると思う。 だから、すごく魅力があり魅かれて行く・・・ 自分の気持ちは複雑で誰か一人だけを、今 選べと言われても到底出来ない・・・ こんな優柔不断な自分が嫌になるがどうにもできない。 いつも明るくやさしいローズにいつも癒されて一緒に居て居心地がとてもいい。 今日はローズと久し振りに楽しもう・・・
店に着く頃にはナミもいつものナミに戻っていた。 やはりいつも元気で明るいナミが一番だ、一緒に居てこちらまでも元気になってくるから、そういうナミが好きだった。 オーダーをしたあとワインを2人で楽しみ、前菜が来るまでの間に今度は休みの日にどこかへ行こうという話になっていた。 旅行は好きなので賛成なのだが、あまり遠くだと宿泊になってしまうので、それはまずいと思い近場で済まそうと箱根とか伊豆なんかいいんじゃないかと提案してみたら、彼女が乗って来たので月内に行くことにトントン拍子で決まってしまった。 唯一心配なのがカミさんのことだけで、他の事は全然気にもしていなかった。 食事も終わり時計を気にしている自分に気がついたナミは 「今日はありがとうございました」 と帰る支度をしてくれた。 よかった早く帰って寝よう、また明日が大変だからと思いつつナミと別れて急いでタクシーに乗り込んだ。 その日カミさんとは一言二言しか話もせず、風呂に入ってさっさとベッドへ入った。 そして、次の日の朝そわそわと出かける準備をしているとカミさんが気付いて起きてきた。 「あれ、今日も仕事なの?」 「いや、仕事ではないが社長と打ち合わせというか今後のことについて相談することになっているんだ」 と訳のわからないことを言ってごまかして、出かける準備を急いだ。 「ふぅ~んそうなんだ、今日は早く帰れそうなの?」 「ん~わからないから、途中で電話するね」 と言って家を出た。 よかったあれ以上ねほりはほり聞かれたら危なかった~と思いつつローズとの待ち合わせ場所へ向かった。
渋谷に着くとモアイ像の前にナミが立っていた。 「ごめん、待った?」 「いえ、私も今来たばかりですから」 「そっかじゃあ行こうか」 と渋谷のクーカーニョというセルリアンタワー東急ホテルの40階にある南フランス料理店へ向かった。 ここは料理がおいしくて、そのうえ東京湾岸エリアが見渡せてデートにはもってこいの場所である。 しかし、予約した時間までまだ50分くらいあったので近くでお茶でもしようと喫茶店へ入った。 ナミがなんとなく元気がない 「なみ、今日はあまり元気がないね 体の具合でも悪いの?」 「いえ、そういうわけではないです ただ… 」 「ただ、どうしたの?」 「先ほど部長が機嫌を悪くしたようだったので・・・」 「いや、さっきは俺も言い過ぎたよ ごめん」 「いや、私の方が悪いですから・・・ でも少しショックだったので・・・」 「ショックって何が?」 「確かに会社の人達に私たちの事がばれたらまずいのは分かるのですが、会社で話も出来ない他人のふりをしなくてはならないとか、私つらいです・・・。」 「でも、その件はナミが分かってくれたんじゃないの?」 「わかっていますけど・・・ なんとなく・・・つらいです」 「ナミにつらい思いをさせて悪いとは思うが、ここは我慢してくれないか」 「じゃあ、一つ聞いていいですか?」 「うん、なに」 「あの外国人の人と私とどっちが好きですか?」 えぇ~やばい~いつかはこんな時が来るだろうと思ってはいたが、こんなに早く来るとは・・・ 「部長、どっちですか?あの、外国人ですか?」 「ナミ、待ってよ 君のことは好きだし愛しているけど、ローズって言うんだけど彼女のことも大事なんだ」 「大事って?・・・ だから私の事より好きってことでしょ」 「そうじゃなくて、両方愛しているんだよ どちらも自分から切り離すことは出来ないよ」 「奥さんはしょうがないけど、あの人とは別れていただけませんか? そのぶん私が何でも部長の事しますから」 「君の気持ちもうれしいけど、ローズも日本に来て一生懸命なんだよ、そんな彼女に魅かれたから・・・ 別れることは出来ないよ」 「何故ですか?」 「ナミ、この話を続けるのなら俺帰るよ」 ナミがうつむき涙ぐんでいるのがわかった。 でも、今の自分にローズとその場しのぎで別れるから大丈夫だよとは言えないし どうしよう・・・ ちょっとした時間が何時間にも感じられた。 すると 「わかりました、私もうこの件に関してはいいません、必ず私の方を好きにさせてみます」 とナミが言って引き下がってくれたので、よかったと思ったが後が不安に思った。 まず今日を2人で楽しもうそうすれば、彼女も忘れてくれるだろうと思いレストランへ向かった。
