助手席に座る妻の手が膝の上で震えている。



日がかわった真夜中の暗い道路は交通量がやはり少なかった。



高速道路をこんなに遅い時間に走っているのは



運搬業者に雇われている大型のトラックか



あるいは夜中のうちにどこかへ行こうと急ぐ普通車だ。



そんなガラ空きの道だから軽々とスピードをあげることが出来る。



隣に座っている妻からの鬼気迫る空気に



ペダルを押しこむ足にも自然と力が入る。



「子供たちが!!」と一言言うと



急いで浴衣から私服に着がえながら私にも早く着がえるように促した。



妻は高速道路を走っている間中



「大丈夫、大丈夫・・・」と呪文のように呟いている。



おそらくは自分自身を少しでも落ち着かせようとしているのだろうが



その呪文は事情を未だうまく把握できていない私の心を少し逸らせる。



高速で2時間以上・・・



降りてからさらに30分・・・



すでに点滅になっている信号を



急ぎながらも注意深く進んだ。



国道から大きな県道に入り



外周をまわるその県道からまた一本・・・二本・・・と住宅街へと道を入る。



この坂を上る道すがら



坂の下から5番目の左手に見えてくる一軒家が



昨日出掛けて以来に見る我が家・・・。



様子がおかしいとすぐにわかった。



遅い時間にもかかわらず集まる人々・・・。



玄関先を取り囲む救急車とパトカーの赤色回転灯・・・。



車を少し離れたところに停めると



私よりも早く妻が車から出て走り出す。



隣の家から隣人の夫人にささえられたまま



ワタルが泣きながら出てきていた。



「わたる!!わたるー!!!!」



妻が叫ぶとワタルは泣きながら駆け寄ってくる。



「お兄ちゃんがぁ・・・お兄ちゃんがぁ・・・。」



鼻をすすりながら必死に話すワタルの後ろで



ストレッチャーで運ばれる“何か”・・・



一瞬見えた長男の姿が回転灯に照らされて真っ赤に浮かび上がっていた。