カメラ付きの応答機のボタンを押す。


門の前を移す映像の中に、見知らぬ男が立っていた。


帽子を深々とかぶり、マイクを気にしているのか少し下を向いているその男は、帽子のつばで鼻より上が見えなかった。


口元には営業スマイルのような笑みを飾り、いかにも不気味な感じである。


「あの~、・・・どちら様ですか?」


『あ、・・・えっと、・・・ぼくですね。・・・そのぉ、近くに・・・新しく建ったアパートに、・・・そのぉ、最近越してきた者・・・なんですが・・・。』


なんとも歯切れの悪い、聞き取りづらいしゃべり方だ。


不気味なうえに、晴れた今日の日には似合わない、どこか陰気な感じであった。


『それで・・・そのぉ・・・、ご両親に・・・、御挨拶をさせて・・・いただこうかとおもいまして・・・。』


ようするに、引越しの挨拶と言うやつだ。


だが、あいにく・・・。


「すみません、父さんと母さんは今いないんですよ。わざわざ来てもらってすみませんが・・・。」


『いつごろ・・・お帰りになるのか、・・・わかったりします?』


「それが、その・・・。ふたりで旅行に行ってるんですよ。明日の夜には帰ってくるんですが・・・。」


『そ、・・・そうなんですか・・・。で・・・では、また・・・あらためて。』


男はそういうと、その場で一礼した。


どうしてだろう、顔をあげたときにその男は少し笑っていた。


はじめっから愛想笑いをかましていたのはわかったのだが、お辞儀の後のその笑いは本当にうれしそうで、にやける、という表現の方があっているかもしれない。


ちらっと見せたその口元は、さっと体を反転させたことにより見えなくなり、アパートとは真逆の方に男はそのまま歩いて行く。


周りの人にも挨拶をするのだろう・・・。


「おい、ワタル。だれだったの?」


「しらね。アパートに越してきたって言ってたんだけどな。なんか・・・薄気味悪いってか、何ていうか・・・。」


「ははっ。なんだよそれ、意味分かんねぇ。・・・そういえば、最近学校の近くとか団地の方の公園で変な奴がうろついてるって、先生言ってたな。」


昨日か一昨日のホームルームの時間に担任が言ってたことだ。


知らない人にはついて行かないようにね、だって・・・。


僕らもう来年には最高学年になるんだよ?


そんなこと十分よくわかってるっての・・・。


そんなことを思いながら聞いてたっけ。


それでも、どこか今の男はひっかかった。


なぜかはわからない・・・。


「なあ、おい。そろそろ始めるぞ。コンピューター入れたトーナメントな。お前、何使う?」


そう言いながら、ちゃっかりと自分の好きな、キャラクターの中では一番攻撃の強いキャラを選んでいる友達を見て、ふっと頭の中が軽くなった気がした。


まあ、・・・考えすぎだろ。


僕は、帰ったらお兄ちゃんに話してみようとその場できりをつけて、起動されたゲームの映るテレビの前に座り込んだ。