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7月1日の東京外為市場で、円は一時1ドル=162円台後半まで下落しました。1986年12月以来、実に約39年半ぶりの円安・ドル高水準です。同じタイミングで、2026年上半期(1〜6月)の「円安倒産」が前年同期比32.3%増の45件に達し、2022年以降の上半期で最多を更新したことも報告されています。
この状況を政策側から見ると、事態はさらに深刻です。政府は今月策定する「骨太方針2026」の前文に、日本銀行の追加利上げをけん制する文言を盛り込む方針を固めました。「円を売ってくれ」と言っているも同然――そう感じるのは私だけではないでしょう。
円安倒産の現状
- 2026年上半期(1〜6月)の「円安」倒産は45件(前年同期比+32.3%)、2022年以降の上半期で過去最多(東京商工リサーチ、2026年7月1日)
- 2025年度(4月〜翌3月)の年度累計は70件で過去10年で2番目の水準(帝国データバンク、2026年3月3日)
- 業種別:卸売業が23件(全体の51%)、小売業9件、製造業5件の順
- 倒産は2022年7月から45カ月連続で発生し続けている
- 7月1日、東京外為市場でドル円が一時162円台後半——1986年12月以来約39年半ぶりの円安水準
出典:東京商工リサーチ「2026年上半期(1-6月)『円安』倒産」/ 帝国データバンク「『円安倒産』動向調査(2026年2月)」
円安倒産の中心は、輸入コストの上昇が直撃する内需型の中小企業です。繊維・アパレル、飲食関連、家具・建具といった業種では、コロナ禍での消費低迷で体力を削がれた後、容赦ない仕入れコスト高騰が追い打ちをかける形となっています。数字の背後には、静かに消えていった雇用が無数に存在します。
骨太方針2026の「日銀けん制」文言
- 政府は骨太方針2026の前文に「経済成長の実現に向け、適切な金融政策運営が行われることも非常に重要だ」との文言を盛り込む方針を固めた(共同通信、2026年6月27日)
- 物価高抑制のために追加利上げを志向する日銀を強くけん制する狙い
- 「責任ある積極財政」を掲げる高市早苗首相の意向を色濃く反映し、日銀に対し金融緩和的な環境の維持を事実上求める形となる
- 昨年7月の石破前政権による骨太方針では、金融政策について経済成長と結びつけた言及は一切なかった——今年は冒頭の「前文」に盛り込む異例の対応
- 日銀は2026年6月に政策金利を0.75%→1.00%に引き上げ(7対1の多数決)、31年ぶりの高水準
【分析】円売り促進
「適切な金融政策が重要」という言葉は一見中立に見えますが、文脈を読めばメッセージは一つです。「利上げを急ぐな」。これは市場参加者にとって、日米金利差が縮小しないというシグナルに他なりません。
通常、政府が中央銀行の金融政策に直接言及することは、中央銀行の独立性を損なうリスクがあるため慎重に避けられます。それを今回は骨太方針の「前文」——つまり最も目立つ位置——に明記したわけです。これを市場が「円売りのグリーンライト」と解釈するのは、ごく自然な反応です。
「日本は構造的に円安を是正できない」という論点を取り上げてきました。日本は海外に巨額の対外純資産を持ち、円安による未実現益を多くの主体が抱えています。「本格的な円高是正=株安・資産縮小」という構図ゆえに、政府は円安を容認せざるを得ない。今回の骨太方針は、その構造的制約を政治的に文書で確認した出来事と捉えることができます。
さらに言えば、高市政権が掲げる「積極財政」は国債残高の増加を前提とします。金利が上がれば国債利払い費が膨らむ——つまり財政上の理由からも利上げを抑えたいという構造的なインセンティブが政府側にはあります。日銀けん制は偶発的な政治判断ではなく、財政と為替の二重のしがらみが生んだ必然的な帰結です。
この状況の最大の矛盾は、「円安は輸出企業の収益を拡大する」という論理で正当化される一方、その恩恵は大手輸出企業に集中し、雇用の絶対数でははるかに多い中小・内需企業が倒産という形でコストを払わされている点です。倒産した企業の雇用は戻りません。雇用を守るという政策目標と、実態として雇用が消えていく現実の間に、深刻な乖離があります。
帝国データバンクは「価格転嫁が追い付かない」という企業の声が相次いでいると指摘しています。卸売業・小売業・製造業を中心に、円安倒産はしばらく高水準で推移するという見通しも示されています。
162円突破が示す新たなリスク「200円」テールリスク
- ドル円は既に162円台に到達。この水準は筆者が「さらなる円安加速を招くテクニカルな閾値」として注視してきたレベルです
- 日銀が年内に追加利上げを実施できないとの観測が市場に広がれば、キャリートレードの再拡大を通じて165〜170円方向への加速が視野に入ります
- 骨太方針のけん制文言は、日銀が追加利上げに踏み切る際の政治的コストを引き上げます。これは日銀の政策余地を事実上制約し、円安の自己強化ループを固定化するリスクがあります
- 為替介入はこれまで一時的な円安是正にとどまっており、持続的な効果は確認されていません
- 極端なテールリスク(200円水準)は依然として排除できません
■ まとめ
- 2026年上半期の円安倒産は45件・前年比32%増、上半期で過去最多
- 骨太方針2026の前文に日銀けん制の文言が盛り込まれる(異例)
- 「利上げを急ぐな」=「日米金利差は縮まらない」=事実上の円売りシグナル
- 構造的に円安を是正できない日本政府が、その制約を政策文書で再確認した
- 恩恵は大手輸出企業に、コストは中小・内需企業の雇用消滅として払われている
- 162円突破後の展開と、テールリスクとしての200円水準には引き続き注視が必要
※本記事は公開情報に基づく個人の分析・見解であり、投資助言を目的とするものではありません。投資判断はご自身の責任においてお願いいたします。


