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今週、NTTファイナンスが総額1兆6000億円規模の外債発行を計画しているというニュースが流れました。ドル建て・ユーロ建て・ポンド建てで資金を分散調達し、事業投資に充てるという内容です。このニュース自体は驚くことではないのですが、「NTT株がなぜずっと上がらないのか」を考えるうえで、非常に良いきっかけになると感じたので、今日は構造的な要因を整理してみたいと思います。
・NTTファイナンスが米ドル建て・ユーロ建て・ポンド建ての複数通貨で社債を発行し、約100億ドル(約1.6兆円)を調達する計画。資金使途は事業投資。
・これは2026年の国内企業による外債発行として最大規模の見通し。
・NTTは2025年7月にもアジア企業最大規模の外債(約180億ドル)を発行しており、2026年2月にも起債、今回が3回目の海外市場での大型調達。
・2026年3月期の自己資本比率は約20.8%まで低下。通信大手の中でも低水準。
①「稼ぐ力」より「使うお金」の方が目立ってしまう構造
NTTの自己資本比率がここまで下がった背景には、2020年のドコモ完全子会社化(約4.3兆円)と、2025年のNTTデータグループ完全子会社化(約2.6兆円の外債発行)という、2度の大型M&Aがあります。そこに今回の1.6兆円が積み増される形です。
今回の調達も含め、NTTは2028年までに成長分野(データセンター、IOWN=光電融合など)に合計8兆円規模を投資する計画を掲げています。一方で年間の設備投資額(2026年度見通しで約2兆5300億円)は、年間営業利益(約1兆7000億円)を上回るペースになっており、「1年分の利益以上を投資に回している」状態です。これは事業として悪いことではなく、むしろ将来の収益源を育てる正常な経営判断ですが、株式市場は「今の利益」を見て評価する傾向が強いため、投資が先行している間は株価が評価されにくい構造になっていると考えられます。
②政府保有株の売却懸念という「オーバーハング」
もう一つの重石が、政府保有株の問題です。政府は防衛費の財源確保のため、保有するNTT株(約3分の1)を売却する方針を示しています。
将来の大量売却が予想される銘柄は、機関投資家が買いを控える「オーバーハング(株式の供給過剰懸念)」が生じやすくなります。実際の売却がいつ・どれくらいの規模で行われるかが不透明なままだと、この懸念は長期化しやすく、株価の上値を抑える要因として機能し続ける可能性があります。NTT法改正の議論が完全に決着していないことも、ガバナンス面での不透明感として同じ方向に効いています。
③株式分割後の「個人投資家の需給」問題
2023年7月の1対25の株式分割で個人株主数が186万人へと急増しましたが、これが諸刃の剣になっている側面もあります。2026年2月の業績下方修正(2期連続減益見通し)を受けて、信用買いをしていた個人投資家のポジション解消売りが発生し、短期的な下押し圧力になったとの分析もあります。
分割によって「買いやすい株」になったことは個人マネーの流入という意味ではプラスでしたが、同時に信用取引主体の短期資金も呼び込みやすくなりました。業績の節目で機関投資家とは別の理由(損失確定売り)で株価が動きやすくなっている可能性があり、ファンダメンタルズの変化以上に株価が反応しているように見える局面が増えている印象です。
④今回の1.6兆円調達はこの文脈にどう位置づくか
今回の外債発行そのものは、ドル建て社債のプレミアム(国債に対する上乗せ利回り)が約20年ぶりの低水準にあるなど、調達環境が良好なタイミングを捉えた合理的な判断だと言えます。問題は調達の巧拙ではなく、「集めた資金がどれだけ早く、どれだけ高いリターンで回収されるか」を市場がまだ見極めきれていないことだと思います。
2027年3月期は、EBITDAや営業利益は増加が見込まれる一方、利払いなど財務コストの増加により最終利益は減少する見通しが示されています。配当は16年連続増配の方針が維持されている点は、株主還元姿勢としては評価できるポイントです。
「悪い会社」ではなく「評価されにくい局面」
整理すると、NTT株が上がらない理由は単一ではなく、①投資先行で目先の利益効率(ROE/ROIC)が見えにくい、②政府保有株売却というオーバーハング、③NTT法改正の不透明感、④分割後の個人投資家主体の需給の脆さ、という複数の要因が重なっている状態です。今回の1.6兆円外債発行は、この①の文脈をさらに強める一手と言えます。
IOWN(光電融合)の商用化が実際の収益に結びつくタイミング、データセンター事業のREIT化など資産効率化の進捗、そして政府保有株売却の具体的なスケジュールが見えてくるかどうか。この3点が「コスト先行」評価から「利益成長」評価へ転換する分水嶺になりそうです。配当目的の長期保有としての魅力は変わらず高いと考えていますが、株価そのものの上昇を狙うなら、これらの不透明要因が晴れるまでは時間軸を長めに見ておく必要がありそうです。
※本記事は個人の分析・見解であり、特定銘柄の購入を推奨するものではありません。投資判断はご自身の責任でお願いいたします。
参考:日本経済新聞、Bloomberg、Investing.com、各種市場分析記事(2026年6月時点)


