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ないとめあです。
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 「円安・物価高・賃金停滞」の原因を安倍晋三元首相や黒田東彦・元日銀総裁に求める議論は、今も多く見られます。しかしその問いの立て方自体に、一つの罠があります。

 個人の責任論に落とし込んでしまうと、背景にある構造的な原因が見えなくなるのです。本稿では「なぜ日本経済はこうなったのか」を、より根本的な視点から整理してみたいと思います。

■ 金融緩和の功罪——麻酔としての異次元緩和

まず、アベノミクスの中核であった「異次元の金融緩和」を、冷静に評価しておきます。

【功績】

 有効求人倍率は2012年の0.80倍から2018年には1.61倍へと上昇し、就業者数は約450万人増加しました。深刻だった失業問題は大きく改善され、デフレ心理の部分的な払拭にも貢献しました。株高によって法人税・所得税の税収基盤が拡大したことも事実です。

(出所:厚生労働省「一般職業紹介状況(職業安定業務統計)」

【問題点】

 一方で、日銀の国債保有割合はアベノミクス開始前の1割未満からピーク時には5割超に達し、政策の「出口」を事実上封鎖してしまいました。大規模な通貨供給は記録的な円安を招き、エネルギー・食料品などの輸入物価を押し上げ、実質賃金と年金の購買力を静かに侵食し続けています。

 ここで筆者の評価を申し上げます。金融緩和そのものは、デフレ脱却のための「時間を稼ぐ麻酔」として一定の合理性がありました。問題は、麻酔を打ち続けながら、本来来るべき「手術」が最後まで行われなかったことです。

■ 手術とは何だったのか

 「構造改革が必要だった」という言葉はよく聞かれますが、その中身は曖昧に使われすぎています。労働市場改革、規制緩和、デジタル化……様々な論点がありますが、日本の文脈で最も直接的かつ即効性のある手術は、税制改革、とりわけ消費税の扱いでした。

 結論から申し上げます。消費税は、上げるべきではありませんでした。据え置くか、引き下げるべきだったのです。


■ 消費増税という自己矛盾

 金融緩和によって需要を作り出そうとしていた局面で、消費税増税によって需要を自ら破壊する——これは政策の根本的な自己矛盾です。

数値を見れば明らかです。

 いずれも「金融緩和の効果を自分で打ち消した」と解釈するほかない数字です。ここで必ず出てくる反論があります。「増税しなければ財政が悪化した」というものです。しかし、この反論は、一つの重大な事実によって崩れます。増税し続けても、財政は改善しませんでした。この現実が、反論の前提そのものを否定しています。

 さらに言えば、もし消費税を引き上げずに需要を維持・拡大していたならば、税収ベース(課税される所得・消費の総量)が広がり、税率が低くても税収総額は増えていた可能性があります。

 これは空論ではありません。現に2023年度の国税収入は72兆761億円と4年連続で過去最高を更新しています。好調な企業業績と景気回復が税収を押し上げた結果です。「景気が良くなれば税収は増える」——これはすでに現実が証明していることです。

(出所:財務省「一般会計税収の推移」日本経済新聞「23年度税収72.1兆円、4年連続で最高」(2024年7月)

 「減税したら財政が悪化する」という主張も、「増税しなければ財政が悪化する」という主張も、どちらも反事実命題であり原理的に証明できません。しかし実際に起きたこと——増税しても財政は改善しなかった——という事実は、増税擁護論の根拠を大きく弱めています。

■ なぜ消費増税は繰り返されたのか——財務省の組織的インセンティブ

 では、なぜこれほど明白な自己矛盾が繰り返されたのでしょうか。ここが本稿の核心です。官僚個人の悪意や無能を問うつもりはありません。問題はより構造的なところにあります。

 財務省の組織としての評価軸は、事実上「プライマリーバランス(基礎的財政収支)の黒字化」に設定されています。この目標を達成する最も直接的な手段が増税であり、省庁として合理的に行動すれば、そこへ収束するのは必然です。これは陰謀論ではありません。組織は自らの評価指標に向かって合理的に行動する——これは制度経済学の基本的な命題です。財務省が「悪い」のではなく、その評価指標の設計が国民経済の最適化とずれているのです。

加えて、消費税には官僚機構にとって「理想的な税」としての特性があります。

  • 徴税コストが低い
  • 節税・租税回避の余地がほぼない
  • 景気の良し悪しに関わらず安定的に徴収できる

 所得税や法人税と異なり、徴税する側にとって極めて管理しやすい税なのです。国民経済への影響よりも、徴税の安定性・効率性が優先された結果が、消費税の度重なる引き上げだったと言えます。

■ インフレ税と消費税——二重の負担

 現在、年金生活者や実質賃金の伸び悩む層が直面しているのは、二重の収奪構造です。一つはインフレ税です。長期にわたる低金利と円安によって、預金や年金の実質的な購買力が静かに失われ続けています。これは目に見えにくい形での富の収奪です。

 もう一つは消費税です。逆進性が高く(低所得者ほど負担率が重い)、直接需要を冷やすこの税は、デフレ脱却を目指す経済政策と根本的に相容れません。アベノミクスの真の失敗は、金融緩和という麻酔を打ちながら、同時に消費増税という毒を繰り返し盛り続けたことにあります。そしてその毒を処方し続けたのは、国民経済ではなく自らの組織的評価指標を最適化しようとした財政当局の構造的インセンティブでした。

「誰が悪いのか」という問いへの答えは、特定の個人ではありません。誤った評価指標によって駆動される制度そのものです。その認識なしに、次の政策を語ることはできないと筆者は考えます。

※本稿における数値データは、財務省・厚生労働省・総務省・日本銀行・内閣府の公表資料に基づいています。

では、また!