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2026年5月21日、参議院法務委員会の参考人質疑で、名城大学の近藤敦教授は「外国人比率が増えて困るなら、日本国籍を取得しやすくすべきだ」と主張した。 「子どもが増えないのは仕方ない。外国人に日本語と法律を学ばせ、国籍を与えて社会の担い手にすべきだ」というのがその骨子である。
率直に言おう。これは問題の本質を丸ごとすり替えた、思考停止の議論だ。
少子化の根本原因は「子どもが生まれないこと」ではなく、「若者が安心して家庭を持てるだけの賃金を稼げないこと」にある。そしてその処方箋は、外国人に国籍をばらまくことではなく、日本人が高い賃金を得られる経済・雇用政策の推進以外にない。本稿ではこの論点を、データと構造的分析をもとに論じる。
「国籍を与えれば解決」論の根本的な欺瞞
近藤氏の論理を単純化すると「外国人比率が上がって社会が不安定になるなら、その人たちを"日本人"にしてしまえば統計上の問題は消える」ということになる。 カナダを事例に挙げ、外国生まれでも国籍取得者が多いため「外国人比率」が低く見えると説明しているが、これは本末転倒だ。
国民が懸念しているのは「外国籍保有者の人口比率という数字」ではない。ゴミ出しのルール、騒音、地域の慣習など、日本社会のルールや文化を尊重しない行動が地域に増えることへの不安である。 国籍を手続き的に付与することで、その人が翌日から日本の地域社会のルールを体得するわけではない。
欧米の「失敗」から学ばない危険性
欧米諸国がここ数十年で経験してきたことは何か。国籍取得を安易に緩和した結果、社会統合に失敗し、文化的分断、治安悪化、移民コミュニティの孤立化が深刻な問題となっている。フランス、スウェーデン、ドイツの事例は繰り返し報じられてきた。 近藤氏はカナダの「成功例」を引用するが、カナダの移民政策は高度技能労働者を厳格に選別するポイント制(エクスプレス・エントリー)を中心とするものであり、日本が検討しているような単純労働者の大規模受け入れとは本質的に異なる。
少子化の根本原因は「賃金の停滞」にある
近藤氏は「いろんな施策をしても子どもはそんなには増えない」と述べ、外国人依存路線の前提としている。しかしこの認識には重大な問題がある。少子化対策が「効かない」のではなく、日本がこれまで「賃金を上げる」という最も根本的な対策を避け続けてきたからである。
OECDのデータによれば、日本の実質賃金はG7の中でも最低水準の伸びにとどまり、過去30年で実質的にほぼ横ばいか低下傾向を示してきた。「働いても豊かになれない」という現実が、若者から結婚・出産の選択肢を奪っている。
安価な外国人労働力が日本経済をさらに弱体化させる
問題の核心はここにある。「安い外国人労働者を確保できる」という状況が続く限り、日本企業は賃金を上げるインセンティブを持たな い。そして賃金を上げなければ少子化は止まらず、少子化が進むからまた外国人を入れる──この悪循環から永遠に抜け出せなくなる。
本来、労働力が不足すれば企業は2つの選択に迫られる。①賃金を上げて国内の人材を確保する、あるいは②ITや自動化・省力化投資によって生産性を高める。いずれも健全な経済の自律的な対応だ。しかし安価な外国人労働力という「第3の逃げ道」を国が用意してしまうと、企業はその方向に流れ、根本的な体質改善は永遠に行われない。
「高賃金で雇える社会」こそが唯一の持続可能な解
以下は、本稿が日本が取るべきと考える政策の方向性である。
| 政策の方向性 | 期待される効果 |
|---|---|
| 最低賃金の継続的・大幅な引き上げ | 低賃金依存ビジネスからの脱却を促し、消費の底上げと内需拡大につなげる |
| 企業の省力化・DX投資への集中的支援 | 人手不足をテクノロジーで解消し、1人あたり生産性向上→高賃金の原資を創出 |
| 若者の正規雇用化・雇用の安定 | 将来所得の見通しが立つことで婚姻率・出生率の自律的回復を促す |
| 子育て・教育コストの抜本的引き下げ | 経済的障壁を除去し、「産める・育てられる」環境を整備する |
| 低付加価値産業の構造転換支援 | 安価労働力への依存を断ち、高付加価値産業へのシフトを加速する |
「民意との乖離」はなぜ起きるのか
近藤氏のような専門家がなぜ国会に呼ばれるのかについても触れておく必要がある。参院法務委員会の参考人質疑は、多様な学術的見解を把握するために設けられた制度であり、そこに呼ばれた専門家の意見が「国民の多数派の意思」を反映するわけではない。
しかし問題は、この種の「学術的な極論」がメディアで報じられ、政策立案の土台として使われることで、実際の立法過程に影響を及ぼす可能性があることだ。
問いを立て直せ
近藤氏の主張の最大の欠陥は、問いの立て方そのものにある。「人口が減るなら外から人を連れてくる」という発想は、問題の原因に向き合うことを放棄し、見かけ上の数字だけを操作しようとするものだ。
正しい問いはこうだ。「なぜ日本の若者は安心して結婚・出産できないのか。その障壁を取り除くために、国は何をすべきか」。
答えは明確だ。日本人が高い技術を持ち、高い賃金を得て、安心して子どもを育てられる経済環境を取り戻すこと。そのためのドラスティックな賃金・雇用政策の推進こそが、少子化・労働力不足に対する唯一の持続可能な解である。
「人が足りないから安い外国人を呼んで国籍をあげる」という路線は、日本社会と日本経済の根本治療を永遠に先送りにする、モルヒネ的な政策だ。痛みを一時的に消すことで、病気そのものを悪化させる。
- 「国籍を取りやすくする」は問題の本質(賃金停滞・少子化)への回答ではなく、統計上の数字操作にすぎない。
- 少子化の根本原因は若者の経済的困窮であり、賃金引き上げ・雇用安定こそが最も直接的な少子化対策である。
- 安価な外国人労働力の確保は、企業の賃上げ・生産性向上のインセンティブを奪い、日本経済の低賃金構造を固定化する。
- 欧米の移民統合の失敗を直視し、「国籍バーゲンセール」路線を避けることは、先人たちの失敗から学ぶ現実的判断である。
- 日本が目指すべきは「日本人が高い技術と高い賃金で安心して家庭を持てる国」であり、そのための経済・雇用政策の抜本的転換が急務である。
※本記事における「確認済み事実」ボックスは公表された調査・統計等に基づく情報を、「推論・分析」ボックスは筆者の解釈・見解を示しています。



