こんにちは!こんばんは!
ご訪問ありがとうございます。
2026年5月現在、新発10年物国債の利回りが一時2.8%を超え、1996年以来約30年ぶりの高水準に達しています。この金利水準の変化は、日本の株式市場の構造そのものを根底から変えようとしています。本稿では、財務省の予算積算金利の動向を起点として、日本株式市場の将来像と投資家が注意すべき点について考察します。
■財務省の積算金利が示す「金利正常化」の現実
財務省は令和8年度(2026年度)当初予算において、10年物国債の予定積算金利を前年度の2.0%から3.0%へ1.0%引き上げました。
| 年度 | 10年債 予定積算金利 | 背景 |
|---|---|---|
| 令和6年度(2024年度) | 1.9% | 日銀マイナス金利解除を見据えた引き上げ |
| 令和7年度(2025年度) | 2.0% | 足元の金利動向を反映 |
| 令和8年度(2026年度) | 3.0% | 直近1ヶ月の長期金利平均と変動リスクを勘案。国債費は過去最大の31.3兆円(うち利払費13.0兆円) |
出典:財務省「令和8年度予算のポイント」(2025年12月閣議決定)
「毎年0.2%ずつ上がる」試算の意味
財務省が公表する「後年度歳出・歳入への影響試算」では、令和9年度以降の金利を2つのシナリオで提示しています。
| 年度 | 試算-1(市場予測連動) | 試算-2(金利一定) |
|---|---|---|
| 令和8年度(2026年度) | 3.0%(基準) | 3.0%(基準) |
| 令和9年度(2027年度) | 3.2%(+0.2%) | 3.0%(横ばい) |
| 令和10年度(2028年度) | 3.4%(+0.2%) | 3.0%(横ばい) |
| 令和11年度(2029年度) | 3.6%(+0.2%) | 3.0%(横ばい) |
出典:財務省「令和8年度予算の後年度歳出・歳入への影響試算」(2026年2月公表)
試算-1の「毎年+0.2%」は、インプライド・フォワード・レート(市場が示す将来予測金利)を機械的に加味した結果であり、固定ルールではありません。市場予測が変われば幅も変わります。
予算策定時(2025年末)の実勢金利は1.7〜1.8%前後でしたが、財務省は積算金利を3.0%に設定しました。これは単なる保守的な見積もりではなく、インフレの定着と日銀の追加利上げを明確に先読みした判断と評価できます。現在の実勢金利2.8%との差はわずか0.2%であり、「防衛ライン」と見なしていた3.0%は「現実の足音」に変わっています。
ただし留意点として、積算金利はあくまで「新発債の想定」です。国債残高の大部分は低金利時代に発行されたものであり、利払い費が本格的に3%水準に達するのは借り換えが進む2030年代以降となります。短期的なインパクトは試算ほど大きくない点は踏まえておく必要があります。
■TINAの終焉
これまで日本の投資家が株式に投資し続けてきた背景には、TINA(There Is No Alternative=他に選択肢がない)という構造がありました。国債・預貯金の金利がほぼゼロであったため、資産を増やすには株を買うしかなかったのです。
| 比較項目 | 利回り水準 | リスク |
|---|---|---|
| 10年物国債(2026年5月) | 約2.8% | 元本保証(ノーリスク) |
| 東証プライム 平均配当利回り | 約2.0〜2.5% | 価格変動リスクあり |
リスクを取って株を買っても配当利回りが2%台前半なのに、日本国政府が元本を保証する国債を買えばノーリスクで2.8%が得られる状況です。株式投資の「リスクプレミアム」が実質的に消滅しつつあります。
機関投資家の資金シフトが株価の重しになる
特に影響が大きいのは、GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)や生命保険会社といった巨大な国内機関投資家の動きです。これまでは低金利環境のため、運用目標(予定利率)を達成するために日本株や外国債券(為替リスクあり)に資金を振り向けていました。国内債券が2.8〜3%を超えてくると、「リスクを冒さずとも国債だけで目標をクリアできる」ようになるため、保有株を売り国債を買い戻す資産再配分が本格化します。これが株価の上値を重くする構造的な圧力となります。
■増配スパイラル、高金利時代に株価を維持する条件
国債が3%近い利回りを出す時代において、企業が株価を維持・上昇させるには、継続的な増配競争に身を投じるか、圧倒的な成長性を示し続けるしか道がありません。
これまで配当利回り2.5%あれば「高配当株」として重宝されてきました。しかし国債がノーリスクで3%なら、リスクのある株式は最低でも配当利回り4〜5%以上を提示しなければ、投資家から見向きもされなくなります。
さらに問題なのは「一度増配すれば終わり」ではないことです。株価が上がると配当利回りは分母が大きくなるため自動的に下がってしまいます。結果として「株価上昇 → 利回り低下 → さらなる増配 → 株価維持・上昇」というサイクルを回し続けることを強いられます。
企業が株価維持のために将来の設備投資・R&D・賃上げに使うべき資金まで配当に回してしまう「縮小均衡の増配」が起きるリスクがあります。短期的には株価を維持できても、長期的にはその企業の競争力が失われ、最終的に増配が維持できなくなって株価が暴落するという最悪のシナリオも想定されます。英国市場が辿ったこの道を、日本も歩む可能性があります。
■「米国型キャピタルゲイン市場」は日本で実現できるか
米国では、バークシャー・ハサウェイやアルファベット(Google)、メタなどが配当を出さず(あるいは極小)、その資金を成長投資と自社株買いに充てることでEPS(1株当たり利益)を爆発的に増やし、キャピタルゲインを提供しています。日本でこのモデルが実現できるかという問いへの答えは、「市場全体としては構造的に困難」と言わざるを得ません。理由は以下の3つです。
壁① EPS成長を支える国内市場の縮小
人口減少と超高齢化が進む日本国内では、設備投資をしても大きな利益の伸びを期待しにくい状況です。米国のGAFAMのような「投資した資金が数年で何倍にもなって返ってくる」高収益イノベーションのエコシステムが、現状の日本市場には存在しません。
壁② 経営者と投資家のマインドセット
日本の経営者は不況に備えた内部留保(キャッシュリッチ)を好む傾向が根強く、米国型のように「利益を全て自社株買いにぶち込む」大胆な戦略を取ることへの躊躇があります。また、日本の個人投資家(特に新NISA世代やシニア層)は「毎月の分配金」や「高配当株」を好むインカムゲイン信仰が強く、「配当ゼロで数年後の株価2倍を待つ」という文化が根付いていません。
壁③ 自社株買いへの社会的・政治的圧力
企業が巨額の自社株買いや株主還元をしようとすると、「株主に回す金があるなら従業員の賃上げに回せ」「設備投資をしろ」という批判が政治・メディアから即座に飛んできます。この社会的空気が、米国型の徹底した資本効率重視経営を阻害しています。
■日本株式市場の将来は三層への分化
日本の株式市場は以下の三層に分化していくと考えられます。
| 層 | 企業像 | 投資家にとっての意味 |
|---|---|---|
| 第一層(縮小) | 低成長・内部留保型。増配圧力に晒され、将来投資を削って配当を出し続け、長期的に競争力を失う | 短期の配当取りには使えるが長期保有は危険。縮小均衡の罠にはまる可能性が高い |
| 第二層(拡大) | 高配当+適度な成長。銀行・商社・インフラ系。国債金利を意識しながら増配を続ける体力のある成熟企業 | 高金利時代でも相対的に安定した株主還元が期待できる。日経高配当株50・SCHDの日本版的なポジション |
| 第三層(少数精鋭) | グローバル競争力を持つ高ROIC企業(キーエンス、東京エレクトロン等)。EPS成長でキャピタルゲインを提供 | 国債金利の影響を受けにくいが、集中投資の個別銘柄リスクは高い |
東証が進める「PBR1倍割れ是正」改革も、中身は「成長しろ」ではなく「持っている現金を株主に返せ」という要請が中心です。これは日本市場が「イノベーションで株価を上げる市場」ではなく「国債金利というライバルに勝つために配当を絞り出す成熟市場」として再定義されていくことを意味します。
■個人投資家にとっての含意と注意点
国債金利が3%を超えて定着した場合、第一層の企業群(低PBR・低ROE・内部留保過多)は株価の下落圧力が強まります。「プライム市場全体への無差別な分散投資」よりも、高配当・高ROEへの選別投資という方向性が今後一層重要になります。
長年続いた「貯蓄から投資(株)へ」という流れは、「貯蓄から国債・債券へ」あるいは利上げに伴う預金金利上昇による「貯蓄(銀行)回帰」へと潮目が変わりつつあります。個人投資家にとっても、インデックス投資や高配当株への投資を続けるだけでなく、資産の一部を日本の個人向け国債や債券ファンドに振り向け、確実に3%近い利回りを確保するという選択肢が、極めて現実的で合理的な戦略になってきています。
高金利時代に株式投資で真に資産を守り・増やすためには、単なる「無理な増配に乗じた投資」ではなく、「インフレを上回るペースで売上と利益を拡大させ、結果として配当も自然に増えていく」本質的な成長力を持つ企業を選別する目が求められます。
※本記事は公開情報および独自の分析に基づく考察です。投資判断はご自身の責任においてお願いいたします。
主な参照情報:財務省「令和8年度予算のポイント」(2025年12月閣議決定)/財務省「令和8年度予算の後年度歳出・歳入への影響試算」(2026年2月公表)
では、また!


