こんにちは、ないとめあです。

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 投資の解説動画やブログでよく見かける言葉があります。「長期で見れば平均年利5〜7%が期待できます」というものです。数字としては間違っていません。しかし、老後の資産取り崩し局面においては、「平均利回りが同じでも、損失が早い時期に来るか遅い時期に来るかで、資産寿命が劇的に変わる」という現実があります。これが「収益配列のリスク(Sequence of Returns Risk)」です。

このリスクを、できるだけ具体的な数字で見ていきます。

まず「積み立てフェーズ」と「取り崩しフェーズ」は別物だと理解する

資産形成には大きく2つのフェーズがあります。

積み立てフェーズ(20〜60代前半)
毎月一定額を投資し、資産を増やしていく時期。暴落があっても「安く買える」機会になる。時間が回復を助けてくれる。
取り崩しフェーズ(60代〜)
生活費のために毎月一定額を売却していく時期。暴落は「安く売らざるを得ない」状況になる。取り崩しが回復の機会を奪っていく。
📌 事実

 積み立てフェーズでは、暴落は「ドルコスト平均法」によって有利に働く場合があります。一方、取り崩しフェーズでは、暴落時に売却を強いられるため、同じ「平均利回り」でも資産の減り方が大きく変わります。これは数学的に証明できる非対称性です。

同じ「平均年利5%」でも、結果がこれほど違う

 具体的なシミュレーションで見てみましょう。1,000万円を元手に、毎年50万円を生活費として取り崩すケースを想定します。どちらも10年間の平均年利は5%で同じですが、損失の来るタイミングが異なります。

ケースA:最初に好調、後に低調
1〜3年目+15%/年
4〜7年目+5%/年
8〜10年目−10%/年
平均利回り約 +5%
10年後残高:約 1,090万円
ケースB:最初に低調、後に好調
1〜3年目−10%/年
4〜7年目+5%/年
8〜10年目+15%/年
平均利回り約 +5%
10年後残高:約 660万円

※ 上記は概念的なシミュレーションです。実際の複利計算とは誤差があります。

⚠️ 注意点

 平均利回りが同じ「約5%」でも、損失が早期に来たケースBでは資産が約400万円少なくなっています。取り崩し額が変わらない場合、この差はさらに拡大します。退職直後(2008年のリーマンショックや2020年のコロナショックのような局面)に暴落が重なった場合、これが現実の問題として発生します。

なぜこうなるのか——「安く売る」の積み重ね

 理由はシンプルです。取り崩しフェーズでは、資産が下落した状態で売却を続けなければなりません。

 例えば、毎月の生活費として10万円分の投信を売却するとします。基準価額が1万円のときは10口売れば済みます。しかし暴落で5,000円になると、同じ10万円のために20口売らなければなりません。口数(株数)が減ると、相場が回復したときに恩恵を受ける元本が少なくなります。これが繰り返されることで、回復しても追いつかない状態が生まれます。

💭 仮説

 「長期投資なら必ず回復する」という命題は、積み立てフェーズにおいては概ね正しいと考えられます。しかし取り崩しフェーズでは、「回復するまで持ち続けられる」という前提が成立しません。生活費が必要である以上、暴落中も売却は続くからです。これはリスク評価の文脈では「時間によるリスク分散」が機能しない局面と言えます。

投資系コンテンツが見落としていること

 50〜60代に向けた「一括投資推奨」型のコンテンツの多くは、この収益配列のリスクに十分触れていません。「過去データでは一括投資の方が有利」という主張は、「取り崩さずに保有し続けた場合」に限った話です。

 しかし50〜60代の現実は、10〜20年後には生活費として資産を引き出すことが前提です。「最終的な残高の中央値」を比較するシミュレーションは、その引き出しの現実を組み込んでいないことがほとんどです。

⚠️ 注意点

 「一括投資の30年後の期待値が積立より高い」というデータは事実として存在します。しかしそのデータは「30年間一切売却しなかった場合」を前提にしています。取り崩しを伴うシミュレーションに置き換えると、結論が変わる可能性があります。データの前提条件を確認することが重要です。

では、どう備えるか

収益配列のリスクに対する実践的な対応策として、いくつかのアプローチが知られています。

✅ 対応策の考え方

① 現金バッファーを確保する
 2〜3年分の生活費を現金または低リスク資産で保有しておくことで、暴落時に株式を売却しなくて済む期間を作れます。相場の回復を待つ「時間の余裕」を買う考え方です。

② 取り崩しを「定額」ではなく「定率」にする
 毎月一定額ではなく、資産残高の一定割合(例:年4%)を取り崩す方法です。暴落時は自動的に取り崩し額が減るため、口数の消費を抑えられます。

③ 退職直後の数年間は特に慎重に
 収益配列のリスクは退職後の初期に最も影響が大きくなります。退職直後の3〜5年間は、リスク資産の割合を下げておくという考え方もあります。

💭 推論・仮説

 上記の対応策はいずれも「期待値の最大化」より「最悪ケースの回避」を優先するアプローチです。資産形成フェーズと取り崩しフェーズでは、最適な戦略の方向性が異なると考えられます。50〜60代向けの投資助言が「積み立てフェーズの論理」で語られている場合、その前提が自分に当てはまるかを確認することが重要です。

おわりに

 「平均利回り5%なら20年で資産は2.6倍」という計算は正しいです。しかしその計算は、相場の上下がどの順番で来るかを考慮していません。そして老後の資産設計において、「順番」は「平均」と同じくらい重要です。

 シミュレーションの中央値は、あなたに約束された未来ではありません。最悪のシナリオを知った上で、それでも許容できる範囲の戦略を選ぶこと——それが、老後資産設計の出発点だと思います。

※ 本記事のシミュレーション数値は概念的な説明のためのものです。実際の運用結果を保証するものではありません。また、将来の相場動向に関する記述は推論・仮説を含みます。

では、また!