こんにちは、ないとめあです。
今日もブログにお越しいただきありがとうございます。
投資の解説動画やブログでよく見かける言葉があります。「長期で見れば平均年利5〜7%が期待できます」というものです。数字としては間違っていません。しかし、老後の資産取り崩し局面においては、「平均利回りが同じでも、損失が早い時期に来るか遅い時期に来るかで、資産寿命が劇的に変わる」という現実があります。これが「収益配列のリスク(Sequence of Returns Risk)」です。
このリスクを、できるだけ具体的な数字で見ていきます。
まず「積み立てフェーズ」と「取り崩しフェーズ」は別物だと理解する
資産形成には大きく2つのフェーズがあります。
積み立てフェーズでは、暴落は「ドルコスト平均法」によって有利に働く場合があります。一方、取り崩しフェーズでは、暴落時に売却を強いられるため、同じ「平均利回り」でも資産の減り方が大きく変わります。これは数学的に証明できる非対称性です。
同じ「平均年利5%」でも、結果がこれほど違う
具体的なシミュレーションで見てみましょう。1,000万円を元手に、毎年50万円を生活費として取り崩すケースを想定します。どちらも10年間の平均年利は5%で同じですが、損失の来るタイミングが異なります。
※ 上記は概念的なシミュレーションです。実際の複利計算とは誤差があります。
平均利回りが同じ「約5%」でも、損失が早期に来たケースBでは資産が約400万円少なくなっています。取り崩し額が変わらない場合、この差はさらに拡大します。退職直後(2008年のリーマンショックや2020年のコロナショックのような局面)に暴落が重なった場合、これが現実の問題として発生します。
なぜこうなるのか——「安く売る」の積み重ね
理由はシンプルです。取り崩しフェーズでは、資産が下落した状態で売却を続けなければなりません。
例えば、毎月の生活費として10万円分の投信を売却するとします。基準価額が1万円のときは10口売れば済みます。しかし暴落で5,000円になると、同じ10万円のために20口売らなければなりません。口数(株数)が減ると、相場が回復したときに恩恵を受ける元本が少なくなります。これが繰り返されることで、回復しても追いつかない状態が生まれます。
「長期投資なら必ず回復する」という命題は、積み立てフェーズにおいては概ね正しいと考えられます。しかし取り崩しフェーズでは、「回復するまで持ち続けられる」という前提が成立しません。生活費が必要である以上、暴落中も売却は続くからです。これはリスク評価の文脈では「時間によるリスク分散」が機能しない局面と言えます。
投資系コンテンツが見落としていること
50〜60代に向けた「一括投資推奨」型のコンテンツの多くは、この収益配列のリスクに十分触れていません。「過去データでは一括投資の方が有利」という主張は、「取り崩さずに保有し続けた場合」に限った話です。
しかし50〜60代の現実は、10〜20年後には生活費として資産を引き出すことが前提です。「最終的な残高の中央値」を比較するシミュレーションは、その引き出しの現実を組み込んでいないことがほとんどです。
「一括投資の30年後の期待値が積立より高い」というデータは事実として存在します。しかしそのデータは「30年間一切売却しなかった場合」を前提にしています。取り崩しを伴うシミュレーションに置き換えると、結論が変わる可能性があります。データの前提条件を確認することが重要です。
では、どう備えるか
収益配列のリスクに対する実践的な対応策として、いくつかのアプローチが知られています。
① 現金バッファーを確保する
2〜3年分の生活費を現金または低リスク資産で保有しておくことで、暴落時に株式を売却しなくて済む期間を作れます。相場の回復を待つ「時間の余裕」を買う考え方です。
② 取り崩しを「定額」ではなく「定率」にする
毎月一定額ではなく、資産残高の一定割合(例:年4%)を取り崩す方法です。暴落時は自動的に取り崩し額が減るため、口数の消費を抑えられます。
③ 退職直後の数年間は特に慎重に
収益配列のリスクは退職後の初期に最も影響が大きくなります。退職直後の3〜5年間は、リスク資産の割合を下げておくという考え方もあります。
上記の対応策はいずれも「期待値の最大化」より「最悪ケースの回避」を優先するアプローチです。資産形成フェーズと取り崩しフェーズでは、最適な戦略の方向性が異なると考えられます。50〜60代向けの投資助言が「積み立てフェーズの論理」で語られている場合、その前提が自分に当てはまるかを確認することが重要です。
おわりに
「平均利回り5%なら20年で資産は2.6倍」という計算は正しいです。しかしその計算は、相場の上下がどの順番で来るかを考慮していません。そして老後の資産設計において、「順番」は「平均」と同じくらい重要です。
シミュレーションの中央値は、あなたに約束された未来ではありません。最悪のシナリオを知った上で、それでも許容できる範囲の戦略を選ぶこと——それが、老後資産設計の出発点だと思います。
※ 本記事のシミュレーション数値は概念的な説明のためのものです。実際の運用結果を保証するものではありません。また、将来の相場動向に関する記述は推論・仮説を含みます。
では、また!


