こんにちは、ないとめあです。
今日もブログにお越しいただきありがとうございます。
イランは「親日国」だとよく言われます。しかし、この認識は危険なほど表層的です。国民感情と体制の戦略判断を混同した結果として生まれる幻想にすぎません。2019年6月、その幻想が白日の下にさらされる事件が起きました。
■ 安倍首相訪問とタンカー攻撃
2019年6月12日から14日にかけて、安倍晋三首相はテヘランを訪問し、最高指導者アリー・ハメネイー師、およびロウハニ大統領と相次いで会談しました(※1・※2)。日本の首相によるイラン訪問は1979年の革命以来、実に41年ぶりのことです。トランプ政権とイランの緊張が高まる中、日本が独自の仲介役を担おうとした試みでした。
しかし、会談が行われていたその日——6月13日、オマーン湾では日本企業・国華産業が運航するタンカー「コクカ・カレイジャス」が攻撃を受け、乗員が避難する事態となりました(※3)。米国のポンペオ国務長官はその日のうちに記者会見を開き、「イランに責任がある」「イランは日本を侮辱した」と発言しています(※4)。イラン側はこれを否定しました。(注)攻撃の主体については、米国がIRGC(革命防衛隊)の関与を主張し映像も公開しましたが、イラン側はこれを否定しており、真相は現時点でも確定していません(※5)。仲介外交の真っ只中に、仲介国の船が攻撃される。偶然の一致として片付けるには、あまりにも出来すぎたシナリオです。仮にIRGCが関与していたとすれば、これは日本の仲介努力を公開の場で無力化するメッセージとなります。実際、ハメネイー師は会談の席で「トランプ氏はメッセージを交換するに値する人物とは考えていない」と明言し、米国との対話を拒否しました(※2)。安倍首相の仲介そのものを、体制側は最初から相手にしていなかった可能性が高いと考えられます。ニューズウィーク日本版は当時、イランの一部勢力が安倍訪問に合わせてタンカーを攻撃した可能性を指摘しつつ、メッセージはトランプ大統領に向けられたものだとも報じています(※6)。解釈は分かれますが、いずれにしろ「親日だから日本には手を出さない」という期待が完全に裏切られたことは事実です。
■ 「親日」ではない
「親日国・イラン」とはそもそも何を指しているのでしょうか。
【国民レベルの親近感】
イラン国民の間に日本への好感が存在することは否定しません。歴史的な植民地支配がなく、アニメや技術への関心、文化的な尊重感があります。ジェトロの報告によれば、安倍首相の訪問はイラン国内メディアでも歓迎ムードで報じられました(※7)。これは国民感情として本物でしょう。しかし、これは「国民感情」であって、「体制の外交戦略」ではありません。
【体制レベルの戦略計算】
イラン・イスラム共和国の実質的な意思決定は、選挙で選ばれた大統領ではなく、最高指導者とIRGCが握っています。日本は米国の同盟国であり、ホルムズ海峡への依存度が世界最高水準のエネルギー脆弱国です(※3)。つまり日本は、圧力をかけるための効果的なレバレッジ対象でもあり得ます(推論)。親日感情がどれほど本物であっても、IRGCの作戦判断においてそれは考慮変数にすら入らない可能性が高いです。国民が日本を好きかどうかと、体制が日本を戦略的にどう扱うかは、まったく別の問いなのです。
■ エネルギー安全保障
日本はホルムズ海峡を通じて原油輸入の約80%、LNGの約20%を依存しています(※3)。2026年現在、同海峡をめぐる緊張は再び高まっており、この問題はもはや抽象的なリスクではありません。そうした状況下で「イランは親日だから大丈夫」という前提を置くことは、危機対応の設計そのものを歪めます。2019年の事件はその危うさを早期に示した事例として、改めて検討に値するものです。
■ まとめ
「親日国・イラン」は、国民感情という実態を体制に適用したため起った錯覚です。安倍首相とハメネイー師が向き合っていたその瞬間に、日本のタンカーが攻撃された。これの持つ意味を日本の外交・エネルギー政策はまだ十分に理解できていません。国民が日本を好きかどうかと、体制が日本を戦略的にどう扱うかは、まったく別の問いです。その混同を続ける限り、日本の中東政策は現実から乖離し続けるでしょう。そして、現在のイランは北朝鮮の体制ににたようなものです。意味ない擁護をイランに向けるべきではないのです。
【参考ソース】
※1 AFP BB News「安倍首相、イラン最高指導者と会談 ハメネイ師はトランプ氏との対話拒否」(2019年6月)
※2 JBpress「中東でまったく通用しなかった日本の『架け橋外交』」(2019年6月)
※3 東洋経済オンライン「ホルムズ海峡攻撃で挙がった『真犯人』の名前」(2019年6月)
※4 J-CASTニュース「イラン訪問は『有意義』か『侮辱』か タンカー攻撃で日米評価割れる」(2019年6月)
※5 Business Insider Japan「日本関連タンカー攻撃の真犯人、テロ専門家はこう考える」(2019年6月)
※6 ニューズウィーク日本版「安倍首相はイラン訪問で日本の国益と国際社会の安定のために勇気を示した」(2019年6月)
※7 ジェトロ「安倍首相がイラン訪問、イラン国内メディアの反応」(2019年6月)
※8 日経ビジネス「『機能しなかった安倍外交』示すホルムズ湾タンカー攻撃」(2019年6月)
※本記事中「推論」と注記した箇所は、公開情報に基づく分析・推定であり、確定的事実ではありません。

