こんにちは、ないとめあです。

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 2026年3月22日、中東からの原油を積んだタンカーが千葉港に到着しました。それが最後でした。ホルムズ海峡封鎖により、日本の原油輸入の約90%を占める中東産原油の供給が事実上途絶えました。 (出所:産経新聞、2026年3月)

 この事態を前に、日本政府はようやくカザフスタン産原油の輸入検討、INPEXのアゼルバイジャン産原油の国内優先供給、サウジアラビア・UAE経由の非ホルムズルートの活用といった代替策を講じ始めました。しかし、問われるべき問いはひとつです。

 なぜ、今まで動かなかったのか?

【論点】
 日本のエネルギー安全保障の無策は「解決できなかった」のではなく、「解決しようとしなかった」政治的怠慢の結果です。その背景には、安全保障を合理性(コスト・効率)で判断するという戦後日本の根本的な誤りがあります。


■ ルビオ発言の何が問題か

 3月27日、G7外相会合後にルビオ米国務長官は「作戦は数週間以内に終結する」「地上部隊なしで目標を達成できる」と述べました。さらに、ホルムズ海峡を通じた貿易から利益を得ている欧州・アジア諸国は、紛争終結後の海峡安全確保に貢献すべきだという認識を示しました。また、イラン側から特定の項目について協議する意志があることを示唆する兆候があったとも述べています。 (出所:ロイター通信、2026年3月27日)

【分析】
 「利益を得ている国が貢献すべき」という論理は、原因と責任を意図的に切り離しています。ホルムズの自由航行を脅かしたのは米国自身の軍事作戦の結果であるにもかかわらず、その「修復コスト」を同盟国に転嫁する構造です。これは外交的なコスト外部化の典型であり、自国で引き起こした問題の後始末を他国に求めるものに他なりません。

 さらに深刻なのは「数週間以内に終結」という発言の信憑性です。IRGCは分散・地下化された指揮構造を持ち、「終結」を誰が何をもって宣言するのかが構造的に不明確です。軍事的勝利の宣言と、ホルムズ海峡が実際に機能を回復するまでの間には、相当のタイムラグが生じる可能性があります。

【推論】
 ルビオ発言はG7という公式の場でなされた政治的メッセージであり、欧州諸国の懸念を抑制し米国主導の枠組みへの同意を引き出すことが主な目的とみられます。「イランが協議の意志を示した」という末尾の発言も、出口戦略を正当化するための布石である可能性があります。実態を正確に反映したものかどうかは別問題です。

■ 代替調達は「一年以内に不可能」という現実

 日本政府はホルムズルート以外の活用を開始しました。本日3月28日、サウジアラビア東西パイプラインとUAEフジャイラ港を経由した原油タンカーが初めて日本に到着する見込みです。赤沢経産相は4月5日、4月25日にも続く予定と述べています。 (出所:経済産業省発表、2026年3月)

 しかし、これで問題が解決するわけではありません。日本の原油輸入の8〜9割はホルムズ経由であり、代替ルートで賄える量は限定的です。カザフスタン産原油の輸入検討も進んでいますが、輸送はアフリカ喜望峰またはスエズ経由となり、コストと時間の両面で大きな制約があります。 (出所:読売新聞、2026年3月23日)

【構造的問題】
 アジア各国も同様に中東依存であり、代替調達先を巡る争奪戦が起きています。新規調達契約からタンカー手配・製油所対応まで最短でも数ヶ月から1年以上を要します。インフラ転換は数年単位です。「緊急シフト」という言葉は、現実においてほぼ語義矛盾に近いと言えます。唯一の実効的な解決策は紛争の終結だけです。しかしそのタイミングと条件は完全に米国の判断に委ねられています。

 なお、カザフスタン産原油をロシア経由でサハリンと交換するスワップ取引の検討についても一部で報じられています。 (出所:毎日新聞、2026年3月) 

 スワップ取引自体は視野に入れられているものの、カザフ→ロシア→サハリンという具体的なルートについては現時点で公式確認はされていません。また、対ロ制裁の観点から米国が容認するかどうかも不透明です。

 

■ 備蓄が尽きたとき何が起きるか

 公称の国家備蓄は約145日分、民間備蓄を合わせると約200日分とされています。 (出所:資源エネルギー庁)

 ただし実効備蓄はこれより大幅に少ない可能性があります。そして燃料油以上に深刻なのがナフサ(石油化学原料)の枯渇です。ナフサはプラスチック・合成樹脂・半導体製造用薬品の原料であり、LNGや再生可能エネルギーで代替することができません。

【段階的シナリオ】

第1段階(数週間):
 ガソリン・軽油の配給制、計画停電、物流コスト急騰による食料品・生活必需品の価格高騰

第2段階(1〜2ヶ月):
 ナフサ枯渇により石油化学コンビナートが停止。プラスチック・合成樹脂・半導体製造用薬品の生産停止。自動車・電機・半導体の生産ライン停止

第3段階(それ以降):
 日本製造業の実質的機能停止。TSMCを含む世界の半導体サプライチェーンへの連鎖波及

【推論】
 多くの論者はエネルギー遮断をインフレ要因として論じます。しかし真のリスクはその先にある「需要崩壊型デフレ」です。生産停止→雇用喪失→可処分所得の急減→企業倒産連鎖→資産価格崩壊という経路で、モノの値段が上がる前に買える人間がいなくなります。インフレで始まりデフレで終わるシナリオが最も危険であり、1930年代大恐慌と論理構造が類似しています。現代は経済の相互依存度が当時より遥かに高く、伝播速度が桁違いに速いという点で、影響はより甚大になる可能性があります。

■ 米国産原油の高値購入を迫られるシナリオ

 トランプ政権は就任当初から「エネルギー覇権」を対外政策の道具として使う姿勢を明確にしてきました。日本が代替調達先を失う局面で、米国がSPR(戦略石油備蓄)の放出と輸出を条件付きで提示してくる可能性は十分にあります。条件として想定されるのは防衛費増額、米国製兵器の追加購入、関税交渉での譲歩などです。

 これは1941年のABCD包囲網——資源を武器に日本を追い詰めた構造——の現代版と言えます。自国が引き起こした危機を利用して同盟国から利権を引き出すという構図です。当時は欧米が日本に圧力をかけました。今回は米国が、自らの軍事行動の結果として生じた危機を、同盟国への交渉カードに転換しようとする可能性があります。

■ 政治家の怠慢――50年間の不作為

 第一次石油ショック(1973年)から50年以上が経過しました。あの危機の時点で、日本は本来このエネルギー脆弱性に正面から向き合うべきでした。INPEXはカザフスタン、アゼルバイジャン、豪州、アブダビ等に権益を保有してきました。分散調達の「種」はすでに存在していたのです。 (出所:INPEX公式サイト・事業概要)

 しかし、その権益を国家安全保障戦略として体系的に活用する政策設計は行われませんでした。今回の危機を受けて初めてINPEXがアゼルバイジャン産を日本優先にする方針を決めたという事実が、その証左です。 (出所:読売新聞、2026年3月23日) 

 これは能力の欠如ではなく、政治的意志の欠如に他なりません。石油ショック以来50年間、日本は中東以外の輸入先多様化を模索してきましたが、結果として依存度は93%に達しており、多様化政策は事実上失敗に終わっています。 (出所:資源エネルギー庁「エネルギー白書」)

【構造】

①中東原油が安価だったため、多様化は「コスト高」に見えました。短期的な合理性が長期的な安全保障を圧迫し続けました。
②ホルムズ防衛は米国がやってくれるという前提が暗黙の国家戦略になっていました。
③エネルギー安全保障への投資は票になりません。ガソリン補助金のような目先の対策が票になり、長期戦略は後回しにされ続けました。
④経産省・外務省・防衛省の縦割りにより、エネルギー・外交・防衛を統合した安全保障設計が機能しませんでした。


■ 安全保障は合理性では動かない

 問題の本質はここにあります。安全保障とは本来、「平時に合理性を犠牲にする意志」がなければ成立しないものです。

合理性ロジック:中東原油は安い → 多様化はコスト高 → 現状維持が最適

安全保障ロジック:単一ルートへの90%依存はリスク → コストを払っても分散せよ → 生存が最優先

 戦前日本は資源安全保障を国家存亡の問題として政治の中心に置いていました。手段の是非は別として、認識は正確でした。南方資源ルートの喪失が国家の死を意味すると理解していたからこそ、極端な選択をせざるを得ませんでした。

 戦後日本はその認識を完全に失いました。安全保障を米国に外注し、エネルギーを市場に外注し、リスク管理を「起きてから考える」に外注しました。その結果として、国家として最も基本的な「自国の生存を自分で守る」という機能が委縮しました。

そして、その衝突の場面で日本が取れる手段が、米国産原油の高値購入というさらに合理性に反する選択肢しかないという、深い皮肉を私たちは今まさに生きています。「合理性だけで動いてきた戦後日本が、初めて安全保障の現実と正面から衝突している瞬間」今回のホルムズ危機は単なるエネルギー問題ではありません。


■ 憲法9条と戦略的自律性の喪失

 日本が航路防衛に動けない根本的な制約として憲法9条があります。これはGHQが起草に関与した条文であり、日本が米国の軍事行動に「巻き込まれない」免罪符として機能してきた側面があります。しかし同時に、日本の自律的防衛力を制限する装置としても機能してきました。

 自国が消費する原油の90%が通過する海峡を、自国が守れない。これは主権国家として異常な状態です。「戦争につながるから駄目」という論法は、現に自国の論理で軍事行動を取っている米国が日本に向けて言えることではありません。各国にはそれぞれの論理があり、自国の生存に関わる航路を守ることは国家として当然の行為です。

【推論】
 憲法改正は必要条件ですが、それだけでは不十分です。改正後に「何をどこまでやるか」という戦略的枠組みが先に設計されていなければ、改正自体が目的化するリスクがあります。現在の改正論議がその枠組みを持っているかは疑問が残ります。


■ カオスの時代へ――ストッパーの退場

 第二次世界大戦を実際に戦った世代が完全に退場しつつあります。冷戦もリアルな記憶として持たない世代が各国の指導層になっています。「戦争とは何か」を身体で知る政治家・市民がいなくなるとき、時代は変わります。戦争を制限するストッパー的役割を担っていた人々が去り、歴史は新たな局面に入っています。

 国際機関は機能不全に陥り、経済的相互依存が戦争抑止に機能しないことが露呈しました(ロシア・ウクライナ、今回のイラン)。米国の「世界の警察」機能は後退し、戦後秩序の前提が崩れています。

【結論】

 これからはカオスの時代です。そのような時代において、安全保障を「合理性」で判断し続ける国家は生き残れません。日本が今問われているのは、エネルギー政策の技術論ではなく、国家として「自国の生存を自分で守る」という意志と戦略を持てるかどうかという根本的な問いです。

その答えを出す時間は、もう残り少ないでしょう。

【主な参照情報】

・ロイター通信「ルビオ米国務長官G7外相会合後発言」2026年3月27日
・読売新聞「カザフスタン産原油輸入検討・INPEX優先供給方針」2026年3月23日
・毎日新聞「原油スワップ取引報道」2026年3月
・産経新聞「中東産原油タンカー最終到着」2026年3月
・経済産業省「非ホルムズルートタンカー到着見込み発表」2026年3月
・資源エネルギー庁「エネルギー白書・石油備蓄データ」
・INPEX公式サイト「海外権益事業概要」

【表記について】「事実」として記載した内容は上記の公開情報・報道に基づきます。「分析」「推論」と明記した箇所は筆者の判断・見解です。情勢は急速に変化しており、本記事公開後に状況が変わる可能性があります。

 

では、また!