こんにちは、ないとめあです。

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 2026年2月28日、米・イスラエルによるイラン攻撃を契機にホルムズ海峡は事実上封鎖状態となった。原油価格は急騰し、日本の大手海運各社は通峡を停止。わずか10日間で、日本経済は構造的な脆弱性を一気に露呈する局面へと追い込まれつつある。

事実確認

 まずは報道ベースで確認できている事実

【事実①】海峡通過がほぼ消滅
 合同海洋情報センター(JMIC)の3月6日付レポートによれば、ホルムズ海峡の商業通航は過去24時間で2件にとどまり、いずれも原油タンカーではなく貨物船だった。通常は1日あたり138隻前後が行き交う要衝が、実質的な機能停止状態に陥っている。日本郵船・川崎汽船など大手海運は通峡を停止。ペルシャ湾内には日本関係船舶44隻が立ち往生し、そのうち約3分の2が原油タンカー・LNG船だとされる。

📎 出典:Bloomberg「ホルムズ海峡の船舶通航がほぼ完全に停止-JMIC」(2026年3月6日) / 物流Today(2026年3月)
【事実②】原油価格の急騰と湾岸産油国の減産
 WTIブレント原油は3月6日時点で92ドル台に達し、週間上昇率は28%に及んだ。3月9日時点では120ドルに迫った。UAE・クウェート・イラクが相次いで減産を開始しており、供給不安は湾岸全体に広がっている。日本向け原油1400万バレルがペルシャ湾内で動けない状態にあるとの報道もある。

📎 出典:物流Today(2026年3月)
【事実③】日本の産業への波及が始まった
 三菱ケミカルグループが3月6日から茨城県の鹿島エチレンプラントの稼働率を引き下げた。出光興産も山口・千葉のエチレン設備について、封鎖長期化なら停止の可能性を取引先に通知した。この2設備の合計生産能力は国内全体の約16%に相当する。ナフサ在庫は国内に約20日分しかない。

📎 出典:日本経済新聞(2026年3月9日) / Bloomberg(2026年3月9日) / 時事通信(2026年3月9日)
【事実④】政府は備蓄放出の「準備」段階へ
 経済産業省が3月9日、国内10カ所の石油備蓄基地に放出準備を指示した。正式な放出決定はまだ行われていないが、G7財務相会合(3月9日)では備蓄放出を含む必要な対応を講じることで合意した。日本の現在の備蓄は国家146日分・民間101日分・産油国共同7日分の合計254日分。ただしこのクッションが何ヵ月で機能するかは封鎖の長期化度合いによる。

📎 出典:物流Today(2026年3月)
【事実⑤】直前までのインフレ指標
 2026年1月のコアCPIは前年比2.0%で、日銀の2%目標内に一時的に収まっていた。これはガソリン旧暫定税率廃止・高校授業料無償化などの制度的な押し下げ効果によるものであり、エネルギー価格の抑制策という「防波堤」は既に剥落しつつある状況での危機到来となった。

半年後のインフレが3%超えか?

半年後にインフレが3%を超えるかを分析する。

【分析】 原油価格が現在の90ドル~120ドル前後へ上がり長期化すると仮定した場合、日本のインフレへの波及は2段階で起きると考える。第1段階はガソリン・電気・ガス料金への直接転嫁(1〜2ヵ月)、第2段階は物流コスト上昇から食品・日用品・工業製品への価格転嫁(3〜6ヵ月のタイムラグ)だ。コアCPIが2.0%で推移していたベースラインに、エネルギー価格急騰の寄与分が上乗せされるため、3%超えは封鎖継続を前提とすれば「十分あり得るシナリオ」となる。ただしこれはあくまで「封鎖が長期化した場合」の条件付き推論であり、確定的な予測ではない。

ナフサ・LNG問題

 原油だけでなく、ナフサとLNGの供給途絶も深刻だ。日本のナフサ在庫はわずか約20日分しかない。エチレン減産が進めば、プラスチック製品・包装材・部品など川下産業全体に影響が及ぶ。さらに世界のLNG供給の約20%を占めるカタールが3月2日にイランのドローン攻撃を受けてLNG生産を停止し、フォースマジュール(不可抗力条項)を宣言した。欧州ガス先物は50%近く急騰しており、日本のLNG調達にも直撃する。これは「エネルギーインフレ」に止まらない第二波のコストプッシュ圧力になる。
📎 出典:Bloomberg(2026年3月9日) / 物流Today(2026年3月)

スタグフレーション

 インフレと景気停滞が同時進行するスタグフレーションは、政策当局にとって最も対処しにくい状況だ。

【分析】  今回の物価上昇は需要主導ではなく、供給途絶によるコストプッシュ型だ。これは1973年の第一次オイルショック時の日本と同じ構造であり、「悪いインフレ」である。企業収益が圧迫され、実質賃金がマイナス方向に押し下げられる中で物価だけが上昇するシナリオでは、消費冷え込みと物価高が並走するスタグフレーション的様相を呈する可能性が高い。日銀は利上げで物価を抑えようとすれば景気をさらに痛め、緩和を維持すれば円安・インフレを増幅するというジレンマに直面する。

トリプル安

円・株・債券の同時下落(トリプル安)は、以下の連鎖で起きうる。

資産クラス 下落メカニズム(推論)
債券安 インフレ加速→日銀の追加利上げ圧力→国債が売られ長期金利上昇
円安 エネルギー輸入額膨張→貿易赤字拡大→実需の円売り圧力が金利差の円高効果を上回る。3月9日時点でドル円はすでに160円に接近
株安 金利上昇+円安による輸入コスト増+消費減退→企業収益見通しの悪化→資金流出
⚠ ただしトリプル安が同時かつ持続的に起きるかどうかは断定できない。円安は輸出企業にとってプラスでもあり、株価への影響は業種によって逆方向になる。また政府の為替介入・財政出動・備蓄放出が一定の緩衝効果を持つ可能性も否定できない。「トリプル安」はあくまで最悪シナリオに近い方向性の議論として捉えるべきで、確定的な帰結ではない。

イランの戦略的意図

【分析】 イランにとって海峡封鎖の長期維持は両刃の剣だ。米軍による掃海作戦・経済制裁の深化というコストを自ら引き受けながら、湾岸産油国を含む広範な勢力を敵に回すリスクもある。過去の事例でもイランは「封鎖の脅し」を外交的カードとして行使しながら、完全封鎖の実施は回避してきた歴史がある。「実質的封鎖の長期維持」と「脅しの持続による交渉圧力」は区別して考える必要がある。後者の蓋然性が高いと考えるが、前者を排除できる根拠もない。

シナリオ

シナリオ 封鎖状況 インフレ(秋) 株・円
ベースケース 1〜2ヵ月で部分的緩和 2.5〜3%程度 円安継続・株軟調
悪化シナリオ 3〜6ヵ月の実質封鎖継続 3〜4%超 円160円台・株大幅安
最悪シナリオ 6ヵ月以上の封鎖+湾岸全体の混乱 4%超・スタグフレーション トリプル安・備蓄枯渇懸念

 現在の状況(3月11日時点)は「ベースケースと悪化シナリオの中間」にある。備蓄という時間的バッファはあるが、ナフサ在庫の薄さと産業への波及の速さは予断を許さない。

結論

 254日分の備蓄は心強いが、問題はその先だ。備蓄の放出は時間を買う措置であり、根本的な解決にはならない。真に問うべきは、原発再稼働の加速・LNG調達ルートの多角化・SDF護衛艦による商船保護の可否(集団的自衛権の解釈問題を含む)といった中長期のエネルギー安全保障政策だ。政府は3月3日の時点で「石油需給に直ちに影響はない」と述べていたが、わずか6日後に備蓄放出の準備を指示している。この対応の速さは危機の深刻さを物語っている。

 たとえトリプル安を免れ、株価だけが上昇する局面となれば、表面的な「株高」が景気悪化の判断を曇らせ、円安も是正されないまま放置されるリスクがある。その結果、輸入コストの上昇を起点とするインフレは高止まりし、長期にわたって持続することになる。

 問題の核心は、日本の家計金融資産の過半数が現預金に偏在していることだ。インフレが数年にわたって2〜3%超で継続すれば、名目上の数字は変わらなくても、その実質的な購買力は静かに、しかし確実に失われていく。

 これは単なる景気後退ではない。エネルギー安全保障の脆弱性を先送りにしてきたツケが、国民の金融資産という形で回収される構図だ。対処を怠れば、日本はやがて先進国の地位から滑り落ち、中進国へと転落する道を歩むことになりかねない。

※事実部分の主要出典:Bloomberg JMIC報告(3月6日)日経新聞 三菱ケミカル減産(3月9日)時事通信(3月9日)物流Today(3月)。分析部分は独自の見解であり、投資助言等ではありません。

 

では、また!