やがて、先に戸の口にむかった一隊から本陣に 援けの兵をもとめる連絡がきました。本陣には白虎隊の少年たちのほかに もはや一兵も残っていませんでした。
こうして、いよいよ少年たちは戦場に出発することになりました。殿様に別れを告げた少年たちは、感激に頬をそめ、澄みきった瞳をかがやかせながら、喜び勇んで滝沢峠を登っていきました。
朝から雨もようの空は、とうとう本降りとなり、風もでてきて遠慮なく少年たちの顔にふきつけます。ぬかるみになやみながら、戸の口原の陣地についたのは、午後5時を過ぎていました。
あたりは暗くなっていて、時おりはるか遠方から銃声がきこえてきます。陣地ではさかんに食事の炊き出しをやっていました。さっそく少年たちはこの大きな握りめしをわけてもらいました。
この握りめしが少年たちにとって、最後の晩餐となったのです。
夜もふけ連絡に行った隊長の帰りを まっていましたが俄かに大砲がとどろき、はげしい銃声が きこえてきました。すでに夜は明けかかっていました。風もやわらぎ雨も小降りとなりましたが、深い朝霧がたちこめて、あたりは少しも見えません。しかしこのままじっとしてはいられませんでした。
班隊頭・原田克吉(はらだかつきち)の指揮のもとに、銃声をたよりに苗代街道をまっすぐ進んで、道の南にある小高い丘に陣をとりました。ここで、原田は敵の様子をさぐるために、少年たち7名をつれて大胆にも戸の口村にでかけました。
しばらくすると、流れる霧の間から猪苗代街道を会津城下へ進む人馬の姿が見えてきました。新政府軍です。少年たちは短い木の繁みに かくれて散開しました。唇を一文字にかみしめた白虎隊は銃の火ぶたをいっせいにきりました。新政府軍もはげしく応戦してきます。
やがて次第に、数多い新政府軍の銃火におされてきました。前ばかりでなく左右からも弾丸がとんできます。傷ついて倒れるものもありました。
新政府軍は四方から取り囲んでしまおうとしているのです。
次第に迫ってくる危機を救うため、年かさの篠田少年は隊長にかわって悲痛な声をふりしぼって、退却の命令を くだしました。
少年たちは、負傷者をいたわりながら、広い湿地帯にはいると、いつのまにかお互いの連絡を失ってばらばらに なっしまいました。それでも篠田少年のまわりには二十人ちかくの隊士が一団となって固まっていました。少年たちは崖をよじのぼり、谷間を下り、追われるようにして戦場からしりぞいていきました。
新政府軍をさけながら新堀の洞門をくぐりぬけ、やっとのことで飯盛山の中腹にある、厳島神社の境内までたどりつきました。いつか雨もやんで雲のきれまから、かすかな日の光がもれていました。
城の方からはさかんに砲声がきこえてきます。篠田少年はみんながそろうのを待ってまた疲れた足をひきずりながら、新堀に沿って歩きました。しばらくいくと、飯盛山の中腹に松林があって、みはらしのきく場所をみつけたので少年たちは新堀をわたってそこによじのぼりました。
体験したことのない凄まじい戦闘と、敗走、睡眠不足と少年たちは疲れ切っていました。
そして、高台からみた鶴ヶ城は黒い煙につつまれ、五層の天守閣の白壁には赤い炎が燃えさかっているようにみえました。また、ほんど火の海となった城下からは、絶え間なく砲声と銃声がとどろいています。
少年たちは予想もしなかった この光景に思わず息をのみました。命とたのむ鶴ヶ城も もはや、落城の運命かと思うと全身の力が一度に抜けていってしまうような悲しさが、少年たちの胸にこみ上げてきました。
「城を枕に討ち死にするつもりでここまできたが、もうお城へ入ることはできない。すべてはおわったのだ。」
一人がこういってがっくり首をたれました。
すると傷ついた一人がいいました。
「このままぐずぐずしていれば、敵の手にかかって後の世までも恥じをさらすようなことになるぞ」
「そうだ、最後まで会津の武士らしく、いさぎよく、みんなここで切腹しよう。」
こうして、少年たちは、遥かにお城をのぞむといずまいをただし一礼してから自刃しました。
少年たちの静に閉じたまぶたのうちにはなつかしい父や母の姿がまた、可愛らしい妹や弟の顔が、そして楽しかった数々の思い出が、美しくうかんでいました。(財団法人 会津若松市観光公社HP 「白虎隊6・7」より転載)』
白虎隊は現在ならば中高生の年代にあたる少年たちで構成された部隊であった。この年頃では考えにくい結束の固さ、頑なとも思われる清廉な志は人々の心を揺さぶる多くの物語を生み、今でも語り継がれている。

▲飯盛山から見えた鶴ヶ城は思いのほか小さかった。


▲旧滝沢本陣




▲旧滝沢本陣は現存する東北最古の民家であり、かつては参勤交代における歴代藩主の休息所だった。



▲いたるところに残された刀傷や砲弾の撃ち込まれた跡が当時の戦闘の激しさを今に伝えている。
【旧滝沢本陣】
福島県会津若松市一箕町八幡滝沢122
TEL:0242(22)8525
入場時間:8:30~18:00(冬時間9:00~17:00)、冬時間は要予約
入場料:大人300円、高校生250円、中学生150円、小学生100円(団体割引あり)
アクセス:まちなか周遊バス『ハイカラさん』『あかべぇ』で「飯盛山下」下車、徒歩10分
会津若松駅から行く際には『あかべぇ』に乗車すると10分くらいで「飯盛山下」に着く。
飯盛山を右手に見ながら、『白虎隊伝承館』を過ぎて少し歩くと右手に見えてくる。
まちなか周遊バス『あかべぇ』
会津若松駅発
9:15/9:45/10:15/10:45/11:15/11:45/12:15/12:45/13:15/13:45/14:15/14:45/15:15/15:45/16:15
飯盛山下発
9:19/9:49/10:19/10:49/11:19/11:49/12:19/12:49/13:19/13:49/14:19/14:49/15:19/15:49/16:19
まちなか周遊バス『ハイカラさん』
飯盛山下発
8:46/9:16/9:46/10:16/10:46/111:11/11:41/12:11/12:41/13:11/13:46/14:16/14:46/15:16/15:46/16:16/16:46/17:16/17:46/18:16
参考HP:財団法人 会津若松市観光公社HP