ドクターChoの診察室 【オムニバスSF短編小説】 -8ページ目

ドクターChoの診察室 【オムニバスSF短編小説】

ドクターChoの診察室。それは誰にも言えない悩みを持つ「患者」が最後にたどり着く場所。そこで明らかになる事実は、誰の心の中にも、ほんの少し潜んでいるかもしれない真実・・・。シニカルでブラックでユーモア溢れて、ホロリ。貴方もどうぞ、診察室へお入り下さい。

「ど、どうしてくれるんだよ!!
ドクターCho!!
あんたの言う通り、やったよ・・・
やったよ・・・・そうしたら・・・あ、あいつが・・・」


彼は身体を震わせながら思い切り私の机の上を叩きました。

そして慟哭しながら言葉を続けました。


「あ、あいつが・・・俺の事を一番心配してくれていた・・・あいつが・・・

じ・・・自殺してしまったじゃないか!!」

「じ、自殺?」


私は思わず聞き返しました。


その男は丁度4ヶ月前、人の紹介で私の診察室を訪ねて来ました。

診察内容も男の外見もよく覚えていました。

男は見るからにひ弱そうな色の白い端正な顔立ちをしていました。

男には珍しいピンク色の頬が印象的でした。

色素が薄いのか短い髪も薄いブラウンで、目も茶色でした。

4ヶ月前の診察内容は下の通りでした。


「どうしましたか?」

「・・・・・・・・・・・・」

「気持を楽にして、話したくなったらゆっくり話を始めて下さい。」

「は、はい・・・な、何から話していいのか・・・」

「何でもいいですよ。
焦らないで、ゆっくりでいいですよ。」


男は下を向いたままなかなか話をしようとしませんでした。


10分位沈黙が続いたでしょうか。

聞こえる音は診察室でずーっと流している


4PAXというバンドのCD音だけでした。


「実は、お、俺・・・い、いや、私は仕事をしていて・・・

仕事が好きなのに・・・仕事のプレッシャーが増してくると、

失敗するんじゃないかと不安が増すばかりで、

突然身体が動かなくなるのです」

「身体が動かなくなるんですか・・・全くですか?」

「激しい動悸と呼吸困難に見舞われ、ホントに動かなくなるのです・・・」

「失敗するんじゃないかという不安で動悸が高まり、動けなくなる・・・

不安な状況に対して具体的に何かイメージが浮かんだりするのですか?」

「・・・・・・・学生の頃、皆に馬鹿にされて笑われていた光景が浮かんできます」

「何で笑われていたのですか?良かったら話してください。」

「・・・・・・・・・・・」

「辛いのだったら無理に話さなくていいですよ・・・」

「ちょ、ちょっと何かで失敗しただけで・・・

皆が指差して笑ってくる・・・
いつも腹が立って『おまえら、舐めてんのか!』と
心の中で食ってかかったりしましたが何も出来ませんでした。
しかしある日、思わず口からポロっと

『ぼ、ぼ、僕を舐めてるのか!?』と言葉を発してしまいました。
すると当時クラスを仕切っていた番長まがいの奴が、

ニヤニヤ笑いながらズカズカと近寄ってきて

『舐めてるで~ホンマに舐めたら~!舐めて欲しいんだろ』

と喚きながら・・・
思い出しても気持悪いのですが・・・
私の顔を思いっきりベローっと舐めたのです・・・
そして・・・そいつは大声で
『こいつホンマにキャンディーやで!!ピーチキャンディや~!』

と叫ぶのです・・・

・・・うっぐっ!!!!! くくく、苦しい!!!!!



ここまで話した時、男は急に苦しみだしました。

そして桜色の頬を持つ色白の顔全体がスケルトン化してきました。

これは一体???

ほのかなピンク色のキャンディの様に、


卵型の彼の顔は変わってしまいました。

そして身体も硬直して動きがなくなりました。

彼は突然キャンディ男に変身してしまったのです。



「○○さん、○○さん!!大丈夫ですか?
安心して下さい!!
誰も笑っていないし、誰も○○さんを舐めたりしませんよ!!

大丈夫!」


私は出来るだけ優しい声で、しかし真剣な顔で彼に声をかけ続けました。

すると、5分くらい経って、


彼の顔は頭の先から順次肉感を取り戻し始めました。


「ド、ド、ドクターCho!!
ぼ、僕は一体どうなっていたんでしょう??」


男は放心状態で私に尋ねてきました。


「何も心配は無いですよ。
○○さんは綺麗なピンク色のキャンディ男に変身していただけです。」


「キャ、キャンディー男?!それって一体どういう事ですか?
何なんです?」


私は変身した外見を丁寧に説明しました。

そして言葉を続けました。


「○○さんは、いつからか何かで失敗する度に、

馬鹿にされたくない、舐められたくない、と

過度に思う様になったのではないですか?
人に舐められたくない、その思いが強ければ強いほど
失敗を恐れ、知らず知らず人に馬鹿にされる、

言い換えれば舐められるかもしれない状況に遭遇する度に、
キャンディ男に変身していったのです。

その学生時代のクラスメイトみたいに

キャンディ男化した○○さんを本気で舐めてくる人間は極めて珍しいです。
大半は驚いて馬鹿にしていた事も、

舐めてかかっていた事も忘れてしまいます。

最初は失敗した時に瞬間的にキャンディ男になって

馬鹿にされる状況を逃れていたのでしょうが、

その弊害として習慣化してしまい、時を経るに連れ失敗を恐れるだけで、

失敗した状況を考えるだけでキャンディ男に変身してしまう様になったのです。
そして身体も動かなくなり硬直化してしまったのです。
激しい動悸だけが記憶に残る。」


「・・・・・わ、私は一体どうすれば・・・いいのですか・・・

キャンディ男・・・」

「キャンディ男に変身している時○○さんは動悸が激しくなるだけで

自分がキャンディ男になっている記憶や自覚がありません。

だから何も恐れる事はないのです。
私は先程ほんの僅かだけキャンディ男を見ましたが、

それは美しい、幻想的な姿でした。
そんな変身はなかなか出来るものじゃありません。
誰に迷惑をかける訳でもなく、

幻想的に変身して一人でキャンディ男になり

一人で硬直して動かなくなるのですから。


こう考えたらどうでしょうか?
○○さんは、凄く仕事熱心だからこそ色々先の事が心配になるし、

心配が不安となり、不安が重なる事で失敗を想定し、失敗を恐れる・・・

不安や失敗は誰にでもありますよ。
でも私も含め大半の人間は

キャンディ男やキャンディ女にはなれません。
実際に不安的中で失敗して、批判を浴びたり非難されたり、

時に叩かれたりして、悔しい思いをして落ち込んだりします。
でも、○○さんはそんな悔しい思いをする前に

キャンディ男に変身する事が出来るのです。
言い換えれば人並みの悔しい思いをしなくていいのです。
だったら、不安や失敗を恐れなくてもいいですよね。
万が一実際に失敗してもキャンディ男が付いています。

そうです!!
○○さんはキャンディ男という美しい変身技を身につけた事で、

失敗を恐れなくていい、前向きに仕事をこなす

本当の仕事人間に変身出来るのです。
キャンディ男という強い味方がいるのですから、

これから恐れずどんどん仕事をこなしていったらどうでしょうか?」


キャンディ男は来室した時とは明らかに違う、


男っぽい顔になって憑き物がとれた様な表情で、


診察室を後にしました。


後編に続く


---【第3話】キャンディ男 前編(終)---