ドクターChoの診察室 【オムニバスSF短編小説】 -7ページ目

ドクターChoの診察室 【オムニバスSF短編小説】

ドクターChoの診察室。それは誰にも言えない悩みを持つ「患者」が最後にたどり着く場所。そこで明らかになる事実は、誰の心の中にも、ほんの少し潜んでいるかもしれない真実・・・。シニカルでブラックでユーモア溢れて、ホロリ。貴方もどうぞ、診察室へお入り下さい。

「ど、どうしてくれるんだよ!!ドクターCho!!
あんたの言う通り、やったよ・・・
やったよ・・・・そうしたら・・・あ、あいつが・・・」


彼は身体を震わせながら思い切り私の机の上を叩きました。

そして慟哭しながら言葉を続けました。


「あ、あいつが・・・
俺の事を一番心配してくれていた、あいつが・・・
じ・・・自殺してしまったじゃないか!!」

「じ、自殺?」


私は思わず聞き返しました。

キャンディ男である彼はその後も感情の高ぶりが抑えられないのか


机の上に両手を置き、立ったまま慟哭していました。

気付けば机の上は彼の涙でかなりの部分が濡れていました。


「○○さん、大丈夫ですか?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


私はタイミングを見計らい机の中からある紙包みを取り出しました。


「○○さん、この薬は最近極秘で入手したものなのですが・・・
私の友人がアメリカのNASAで働いていて、
彼に頼んで取り寄せました。」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「宇宙飛行士が広大な宇宙で孤独感に苛まれたり、
不安や寂しさでどうしても感情が抑え切れなくなった時、
精神を安定させる為に使用する薬です。
NASAで開発されたのですが、
完全な生薬で誰が飲んでも副作用は一切無い、
しかし効き目は驚くべき即効性がある薬なのです。」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「○○さん、どうですか?
私を信じて、いやいやNASAの技術や知識を信じて
この薬を飲んでみませんか?
少しは気持が落ち着くかもしれませんよ。」



彼は暫く考えていましたが、

おもむろにその紙包みを取り上げ一気に飲みました。

5分もしない内に彼の体の震えは止まり、


落ち着いた表情で椅子に腰掛けました。


「どうですか?大分落ち着きましたか?」

「・・・・・・・・・・はい・・・・・・・・・・・・」

「よかった・・・どうですか、少しくらいなら、話できますか?」

「・・・・・・・・・・はい・・・・・・・・・・・・」

「もし、よかったら自殺した人の話を聞かせてくれませんか?
無理はしないで下さいね。
話せる・・・話したい範囲でいいですよ」

「・・・・・・・・・・はい・・・・・・・・・・・・」



暫く沈黙が続きました。

部屋に流れる4PAXの4曲入CDも既に4順目になっていました。


「前にドクターChoに診て貰ってから、
教わった風に考える様になって・・・
何となく自分もやれるんじゃないか、もう一度好きな仕事
頑張ってやってみようと、凄く前向きに考えられる様になりました。
ラッキーなことに、仕事もすぐ見つかりました。
ある会社に籍を置いて、パートナーにも恵まれて
あっという間に仕事はどんどん増えていき、
自分でもやりがいを感じる毎日が続きました。」

「良かったですね。
○○さんなら絶対にやれると思っていました。」

「・・・・・・・・・・そしてある日、あいつから電話がかかってきました。
突然今日会えないかと・・・でも・・・私は仕事が忙しかったし、
自分の為にもガンガン仕事をやりたかったし・・・
結局つれなく断ってしまいました・・・・ぅぅうう・・・」

「・・・・・・・・・無理して話さないでいいですよ。
また、今度にしますか?」

「・・・・・ぃ、いや・・・・・・とにかくその日私は
自分の都合で彼の急な誘いを簡単に断ったのです・・・・」


明らかに彼の表情は険しくなり、若干の震えが蘇ってきました。

しかし、薬の効用かそれ以上は彼自身が乱れる事も無く、


再び話をし始めました。



「あいつは前の会社に勤めていた時の同僚で、
その頃から自分で自分が分らなくなり、

体が硬直して仕事にも支障をきたす、

会社にも行けなくなる私の事を一番親身に心配してくれ、
家にも遊びに来てくれ色々アドバイスをくれました。
その後その会社を辞めてからも、色々気遣ってくれ
いつも兄貴みたいな感じで私に接してくれました。

ドクターChoの噂を教えてくれたのも彼でした。
兄貴的な唯一信頼出来る奴でした。
そんな彼からの誘いだったのに・・・・・・・・
私は無碍にその誘いを断ったのです・・・・・・

そして翌日・・・家で夕食をとっていると携帯に電話が・・・

警察からでした。
その大事なあいつが、彼が、兄貴みたいなあいつが・・・・

飛び降り自殺をしたのです!」

「・・・・・・・・何故、警察から

○○さんの携帯に電話が・・・ご家族は?」

「後で知ったのですが、彼は奥さんと別居していて、
1人で生活していたのです。
前の会社も最近辞めたらしく、

同僚達との付き合いも殆ど無かったそうです。
身元が確認出来るものも無く、たまたま壊れていなかった

彼の携帯の中で発信履歴に残っていたのが、

私だけだったそうです・・・
それで警察が私にまずかけてきた・・・
その後奥さんとも連絡はとれたらしいですが・・・」

「・・・前の会社の同僚という事ですが、

その人とはそれ程親しい、何年来の付合いだったのですか?」

「・・・・・ぃや・・・・実際に会ってゆっくり話をしたのは

5回も無いかもしれません・・・・・
しかし・・・・私は・・・私は・・・自分の事だけ考え

本当に大事なかけがえの無い人間を失くしてしまった・・・

あの時、私があいつに会っていれば・・・
今度は私が彼の話を、悩みを聞いてやっていたら・・・

彼は自殺せずに済んだかもしれない・・・」

「・・・・・・・そんな風に自分を責めてはいけませんよ。
それにそこまで○○さんが彼に対して

気持の責任を負う必要は無いと思いますが・・・
かけがえの無い人と呼ぶ程、親しい関係だとも思えませんが・・・」

「ドクターCho、あんたには何も分らないよ!
俺の気持なんかね・・・・」


彼は急に黙り込んでしまい、


どんどん自分の世界に入りかけていました。

このままではヤバイ!とっさに私は立ち上がり


彼のむなぐらを掴んでいました。


「○○さん!!
ちゃんと話をする気があるんですか?私には何が何だか分らない!
このまま自分の世界に入って、

またキャンディ男としてずーっと生きていくのですか?!
折角見つけた自分や仕事をここで投げ出すのですか?!」


かなり強い口調で彼を力一杯揺らせながら私はまくし立てました。

彼の目が反応してキッと私を睨みつけた瞬間を


私は見逃しませんでした。

再び彼を腰掛けさせました。

そして彼は静かに話を続けました。


「あいつの葬式で、初めて奥さんに会いました。
参列者も殆ど居ない淋しい式でした。
式が終わって、奥さんが私を別室に案内しました。
話があると・・・そして私は驚くべき話を聞いたのでした・・・

彼等の別居原因は・・・

彼はいつも一人で寝て彼の部屋はいつもロックされていたそうです。
ある朝奥さんはどうしても彼に頼みたい急ぎの用事があり

彼の部屋のドアノブを無意識に回しました。
いつもロックされている筈のドアがその日に限って開いたのです。
彼女が部屋の中に見たものは・・・・・・・・・・」

「・・・・・・何だったのですか?・・・・・・・」


「そ、そ、それは・・・・・ブルーに輝く・・・・ミントキャンディの様な・・・

変わり果てて身動き一つしないあいつの姿・・・だったそうです・・・」

「・・・・・その人も実はキャンディ男だったのですか・・・・なるほど・・・」

「だ、だから、だからこそ彼は私に優しかった・・・

私の事を誰より、深い付合いが無いのに分ってくれた・・・
そんな彼の初めての頼み、会って話をしたいという誘いを、

わ、私は・・・自分の仕事・・・いや自分の都合で簡単に断ったんだ・・・

なんて奴なんだ!俺という人間は・・・
きっと仕事や家族や色々な事で悩んでいたんだ・・・

悩みまくって私に助けを初めて求めてきたのに・・・・俺は・・・」


体を震わす彼の目から再び大粒の涙がとめどなく零れ落ちました。

私は暫く考え、ゆっくりとタバコを一服吸いながら話を始めました。


「○○さん!○○さんは大きな勘違いをしていると思いますよ。
私には何をそこまで○○さんが悲しんでいるのか理解し難いのです。」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「○○さん、人の死を不幸なものだと思っているのですか?
何故ですか?
誰も死後の世界を知らないし、経験も出来ない。
なのに人の死は悲しむべき不幸なものと決め付けている。
現世に残された人間がもう会えないから、淋しいから、

だから死は悲しい、或いは不幸という事にはなりません。
それどころか人間の恐るべき忘却本能は

どんな悲しみも時間の経過と共に軽いものにしていく。
言い換えれば一生持ち続ける様な深い悲しみというのは実は存在しません。
忘却本能によってげんきんなくらい薄れてしまう悲しみ、

そんなある意味薄情な自分を戒める為に

悲しみの記憶を持ち続けようと逆に努力している感さえあります。
だから墓とか仏壇とか命日とか、

人の死を少しでも思い出す為のツールが存在するのです。」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「元来人間の動物機能としての終焉である死は

悲しむべきものでも、何でもないのです。
単なる一つの活動体の終わりに過ぎません。」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「彼の自殺も彼自身が選んだ彼なりの動物機能の終焉だと思います。
ましてや彼は私の様な凡人と異なるキャンディ男です。

それもブルーの・・・
○○さんは薄いピンクのキャンディ男ですが、彼はブルーです。
これは間違いなく何か意味があります。

こう考えてはどうでしょうか。

私達は地球上に生息する生命体です。
イコール宇宙生命体の一つです。
○○さんや彼は宇宙生命体としてのリフレクションであり、

時に時空間を超えてその姿を現すのです。
そして彼は大人の、聖人の域に達している

ブルーキャンディ男なのです。
○○さんは薄いピンクですし

まだまだ子供のキャンディ男なのだと思います。

彼は知っていた筈です。
人間として地球人としての役割の終わりが近付いていたのを。
しかし、彼は偶然出会った○○さんの現状を見て

終わりの時間を意図的に延ばしたのだと思います。
奥さんに見られる瞬間に彼は病死して

地球人としての時間を終えなくてはいけなかったのでしょう。
しかし○○さんが気になり、

事実を見られた奥さんとは別居という形をとりながら、

○○さんを見守っていたのです。

彼の暖かい眼差しのお陰で○○さんは地球人として人間として、

この現世で適応していける自信をつけ始めた。
そして時をみて彼は○○さんの今の強さ、適応力を試したのです。
それがその唐突な電話だったのです。

自分の好きな仕事を優先した、

言い換えれば○○さんご自身の人生を優先したそのジャッジをみて、

彼は安心してこの地球上での生命活動を終わりにしたのです。
彼の地球人としての精霊とキャンディ男としての精霊が合体して今、

宇宙のどこかで次の活動を始めている事でしょう。
そして彼は宇宙の何処かから○○さんを時々見ています。
○○さんがピンクのキャンディ男から、

少しづつブルーのキャンディ男に成長していくのを、

そして、○○さんがいつの日かブルーのキャンディ男として、

過去の○○さんと同じ様に悩んでいる別の

キャンディ男、キャンディ女を助けているだろう姿を・・・

悲しむどころか喜ぶべき素晴らしい出会いだし、実際の話だと私は思うんですがね。」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


「死の観念とか死後の世界とか、

先人が勝手に作り上げたものばかりですよ。
同じ作り上げるものなら、○○さんと彼と私で、

違う死の解釈や死後を作りませんか。
作り上げるというか、感じ取れる死後が必ずあると思いますよ。
それでいいじゃないですか(笑)」


彼は今迄見たことも無い穏やかな表情になりました。

そして軽く会釈して部屋を出て行きました。

元来彼がもっている美しい目の中で


一瞬光ったブルーの輝きが印象的でした。


賢明な読者の皆さんは既にお気付きでしょう。

NASAが開発した新しい生薬タイプの


超強力な精神安定剤の正体を・・・

---【第4話】キャンディ男 後編(終)---