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TITLE:
設計図を、いつかの私に。
SUBTITLE:
〜 the Bottled Blueprints. 〜
Written by BlueCat

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 この世界のすべてが体系的な存在であると肌で感じたのは17歳の頃だったか。
 体系的というのはすなわちシステマティックな、ということであり、存在という存在のすべては細分化が可能で、上位的存在の要素(パーツ)としての側面も持つ。
 もちろんアタマでは知っていた。しかし肌で感じることはなかった。
 
 その細分化の下限(最小単位)が、たとえば物質なら分子や原子であり、陽子やら中性子やらクウォークやらといったものであることを(学校の授業では習わなかったが、科学誌を7歳から読んでいたので)知ってはいた。
 しかし我々は、単一の分子や原子を肌に感じることはない。いや少なくとも僕には分からない。
 光や熱なら皮膚粘膜を通して感覚できるが、肌で存在という存在のすべての最小単位を感覚することは不可能だ。
 
 自然現象を含め、すべてのものが循環しているというのも然り。アタマでは分かっているのだが、肌で実感することは困難だ。
 地表海上の水分が蒸発し、降雨するという循環をアタマで理解していても、目の前のことに囚われてしまう我々にとって、数秒から数時間という(人間の主観的において)理解しやすい時間単位(スパン)の外を知覚し認識することは困難だ。
 たとえばマイクロ秒単位もそうだし、数万年、数億年単位もそうだ。
 
 僕らの身体は結局のところどこまで行っても人間のそれでしかなく、肉体によって知覚と認識は限定される。
 だから宇宙の歴史を知ることはできても体感できず、つまり体験することもできない。
 またより短い時間単位で寿命が終わるミクロ物理の存在についても同様、知ることはできても体感などしようがない。
 
 それがあるとき、ふっと降ってきて、宿ってしまった。
 ずいぶんと(いわゆる)スピリチュアルな物言いだとは思うが、すべての概念が知覚や認識といった「物理的には存在しない空間」にのみ発生し存在するように、その概念は物理存在とは別のものとして僕の価値観内部に唐突に形成され、僕の知覚に居座ってしまった。
 
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 それから2年ほどは、その概念にずいぶんと支配された。
 支配といっても指図されるわけではない。それは概念であって思考ではないからだ。
 思考が価値観によって編まれる布であり、価値観が記憶によって縒り出される糸であるなら、記憶の源泉である経験はそれを織りなす単繊維だ。
 ところが降って湧いた概念には、経験がないし記憶もない。価値観がないから思考もない。人格だってない。
 TVもないしラジオもないしクルマもそれほど走ってない。
 
 にもかかわらず、その概念が僕のあらゆる知覚と認識に居座った。
 たとえば前述の「記憶の源泉である経験」は、思考によってそのありようが左右される。そうやって物事のすべてが循環していると、感覚してしまった。
 =A=B=C=……といった具合に、物事のすべてが繋がっているように思えて、しかしある程度の範囲から外は、霧が降ったように、やがておぼろになってゆく。
 
 曰く言いがたい感覚で、言語化もうまくできなかったから、誰にも説明できなかった。
 もちろん、この程度の言語化で誰に伝わるとも思っていない。
 結局のところ言葉というのはどこまで行っても言葉に過ぎず、デジタルな情報である以上、知ることはできても肌で感覚することは不可能だ。
 
 感覚した情報の多くを我々は言語化してやり取りしているが、それではその言葉(言語化された情報)から、感覚を還元することが可能かといえば端的には不可能だ。
「楽しい」「悲しい」「嬉しい」と言葉を通じたところで、そこには百の楽しさがあり、千の悲しみがあり、万の嬉しさがある。
 そのごくごく当たり前の事実が、決して誰とも通じ合うことがないという悲しみや、自分の中で自身が手にしたという喜びや、言語化したところで誰にも伝えることができないという空しさとともに肌に密着してしまい、その先すべての情報が、その肌にまとった非言語的な実感によってフィルタされてしまった。
 
 しかもそれは雨合羽を羽織ったときのように外界の情報をごわごわと曇らせるのではなく、より鮮烈に、ときに突き刺すような痛ましさで、しかし刹那のうちに揮発してしまうような儚さで五感のすべてを覆った。
 そこには思った以上の情感があって、思った以上に矛盾したありようが含まれていた。
 
 だからたとえば僕は、生と死をあまり対極の存在とは思っていないし、世俗に言われるほど善と悪とか、倫理と不義に差を感じない。
 それらは結局、どこかものすごく近いところで、皮一枚の隔たりによって繋がったものなのだ。
 悪を規定すれば善の立場に立てるかもしれないが、善が容易に悪でありうることを我々は知っている。たとえば十字軍は誰の、何を目的とした組織だったか。
 
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 そのような感慨があって、それでも思うすべてを言葉に残したいと足掻いた時期もあったのだが、やがてとうとう諦めた。
 先に述べたとおり、どれだけ言語化して記録に残したところで、読む者が還元できなければその情報に意味はない。
 たとえばSF作品で、遠い未来や異星から革新的な技術を搭載したメカニズム(たとえばタイムマシンやテレポータなど)の設計が送られて、それが現代世界で具現されるというテーマがあったりするが、現実問題として設計図だけですべての存在を具現することは不可能だ。
 そこにはおそらく未知のマテリアルが記述され、未知の技術が必要で、未知の論理に立脚し、未知の手順が要る。
 
 たとえば江戸時代に現代の電気自動車の設計図を送り込んだとして、果たしてその電気自動車が江戸の城下町を走ることはない。
 僕ら一人一人が、誰でもそうした設計図を抱えているのだと思った。
 
 どんな実感も、どんな経験も、どんな感慨も、痛みも悲しみも喜びも空しさも、言葉にしたら最後、それはおよそ間違いなく伝わらず、そして言葉にしない限り絶対に伝わらないという事実に、嗤うような、哭くような、えも言われぬ(エモいわれぬ、ではない)どうにもしようのない、言いようのない感情やら感覚に沈められ、溺れた。
 溺れるたびに死ぬ思いをした。
 現実問題、その度に抱えている価値観は無価値になり、すなわち死んだのだ。意味を与えれば、即その意味を奪われるのだから。
 
 それでは誰かが大切に抱えているその設計図を、それなら自分は解析し理解し共有し具現することができるのだろうかと考え、そしてその間に横たわる深淵とも呼べる闇とも隔たりともつかない断絶について考えて、どうしようもなくなった。
 目に見えて肌を重ねることのできる相手すらどうしようもなく手に届かない存在であり、同じ場所で同じ時間を過ごしていると感覚したとしても、それが果たして事実だと証明することは誰にも(少なくとも僕自身に対しては)不可能だったからだ。ならば世界のすべては錯覚か。
 
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 今でも(あるいは今だからこそ)時々、その感覚をありありと思い浮かべることができる。
 漆黒に荒れ狂う大海原の、しかし無音の嵐のようで、その光景はあまりに非現実的で、どうしようもないくらい孤独かつ絶望的ではある。
 
 そして一方で、だからこそ人々は言葉にすがったり、あるいはあるかもしれないしないかもしれない望みを見出して、誰かと手を取り合うのだろうとも思った。
 それが有益か無益かを論じても仕方ない。それを信じた人に信じただけの有益と無益があるのだから。
 
 生きることは何なのかと問われたら、僕はそのように答えるだろう。
 つまり「夜の海原で無音の嵐に遭難するようなものだ」と。
 有益か無益かを論じても仕方ないのだ、そんなものは信じた分だけ百も千も万もの意味や価値を、つまり無意味も無価値をも持っている。
 
 論じて正解が出たところで、一体誰が満足するだろう。論じて現実を知ったところで、一体何を感じるだろう。
 対立した価値観を抱える相手を論破したところで、一体何の意味があるというのか。
 誰かに勝っても、何かを成しても、たいした意味はないのだ。その意味や価値を自分自身で決められない限りは。
 
 無人島に運良く漂着したとして、ボトルに設計図を詰めて海に放ったところで、その気休めに慰められるのは自分だけである。
 それでも慰めがないよりはよほどいい。今はそう思えるようになった。
 無人島で慰めもなく生きるのは、たぶん嵐に溺死した方がよほどもましだと思えるだろうからだ。

 慰めは、ないよりはあった方がいい。
 四捨五入で百年生きて得られた知見はそれだけだ。
 
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 我々の設計図は、我々と同じ技術レベルの者にしか理解できない。再現できない。具現できない。
 
 皆が己の正義と理想と共感を語る。
 テレビもねぇ、ラジオもねぇ、クルマもそれほど走ってねぇ、という環境に忘れられたハイブリッド車のように。
 孤独の過去に取り残された、未来からの望みのように。
 
 まるでそれだけが孤独と絶望の無人島に閉じ込められた己の、唯一の慰みであるかのように。
 
 
 
 
 
 
 

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[NEXUS]
~ Junction Box ~
 
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[Engineer]
  :青猫β:銀猫:
 
[InterMethod]
  -Algorithm-Chaos-Eternal-Memory-Moon-Stand_Alone-Technology-
 
[Module]
  -Condencer-Generator-
 
[Object]
 -Night-
 
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[Cat-Ego-Lies]
  :青猫のひとりごと:
:記憶の切片:
 
 
 
//EOF