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TITLE:
電子マネーなんか渡さねえよ。
SUBTITLE:
~ none but money. ~
Written by BlueCat

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230220

 9時に目覚める書類仕事の日。
 昨晩は22時には意識を失い始めたので眠り、何度か目覚める。
 悪夢を見て、ベッドも布団も汗浸しで目覚めたりした。
 猫を殺す夢。
 近所のゴミステーションがまた荒らされていたので、アヲの毒殺を真剣に考えなくてはいけないと、夜な夜な考えていたのが悪かった。
 数年前にベッド一式を新調したおかげで、布団の中で全身が冷えて目覚めることはなくなったが、高性能な羽毛布団は時々、冬の冷たい空気の中で驚くほどの保温力を発揮する。

 確定申告のためのものを含む書類整理は通常、四半期に一度はするようにしていたが、少し慣れてきたこともあり、昨年の夏から放置していた。
 ちなみに僕は公称「一人暮らし専業主夫」であるため、僕の業務を監督する人間はこの世界にいない(仮想奥様は虚数世界の住人だと思う)。
 とはいえ業務に関連した領収証や各種郵便物を分類保管しておくだけで、あとは分類に基づいて保存したり、整理提出するだけで済むわけだから、最初の分類保管さえしっかりしていれば、つまづくことは少ない。

 問題もある。
 僕が妹の分も業務を処理するのだが、妹の書類のほとんどは当然ながら僕の手元には届かない。
 妹は結婚しているので、別生計別所帯であるから必然だ。しかし不思議な名称をした一般家計の額を大きく超える額面の数々を、彼女は管理どころか処理すらできない。

 僕だって、初任給で自室用クーラを買ったとき ── 当時はまだ父上たちと暮らしていたが ── は手が震えた。
 月給にほど近い現金を電気屋で支払うのは、誇らしいというよりは恐ろしかった。

 妹の場合も同様、自分で見たり使ったりする以上の金額を扱うことに恐怖しているのだと思う。
 実際問題、僕と妹が抱えている負債は、父親の会社が倒産したときの負債を超えている。
 巨額の負債と一家離散は、おそらく彼女の記憶の中でだいたいイコールで結ばれているらしく ── 書類上の額面収入が高額だという理由で ── 旦那様の扶養を外れる可能性があると税理士に言われただけで「離婚しなきゃダメなのかな」と泣きながら質問してくる程度にはバカである。
 ためにその事務処理や各種の渉外業務を、すべて僕が管理しているというわけだ。
 こんな不思議な仕事をしている人間は、これまでの観察の範囲では僕しかいない。

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 着替えてコンビニまでコピーに出かける。
 スキャナやプリンタを20代の頃は持っていたのだが、使用頻度があまりに低いため、印刷類はすべてコンビニか知り合いを使うことにしている。

 書類仕事用に ── 机に使っているスチール棚や書類キャビネットの一部はキャスタで自走できるため、自分を取り囲むようにして部屋から出られないように ──室内レイアウトを変更するところから開始。
 一部書類(妹名義のもの)の再取付けで2、3電話をして、昼過ぎには終わった。
 追加で届く書類を待たず、発送を掛けて今日の業務は終了。

 書類仕事の最中、僕は意識して喫煙しながら行うようにしている。
 ニコチンは「現在の行動を肯定的に脳に焼き付ける」作用があるので、事務仕事が嫌いな僕にはうってつけというわけだ。

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 妹名義の書類で、数点不備がある。
 ひとつは役所で再発行が可能で、かつ ── 当然ながら ── 本人が取付けるのが手っ取り早いため、仕事終わりのタイミングでこちらに届けてもらう。
 もう一点、妹の自宅に届いているはずの書類がこちらに来ていないので、発行元に再発行を依頼した上で、妹本人に再確認を依頼する。

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 自宅に来た妹と話していたのだが、妹の娘(僕の姪)は、僕から貰ったお年玉を使いたがらないらしい。
 ついでに言うと銀行にも預けたがらず、自宅の仏壇に飾ってある父上の写真の前にずっと置いているそうだ。
 理由は、ピン札だから。

 どうやら旦那様側の親族たちは、誰もピン札ではお年玉を渡していないらしい。
 僕には少し不思議な様式なのだが、そういうことを気にしない人もいるようだ。
 最後に一緒に暮らした女性(恋人としての認識さえ忘れてしまったので、名前も顔も分からない)も、僕がピン札を丁寧にストックしていることを嗤っていたので似た人種だろうと想像する。

 お金を「使う」ぶんには、ピン札だろうがヨレていようが破れていようが、問題はないだろうと思う。
 しかしお金は「使う」ばかりではない。
 お年玉や、ご祝儀は、相手に「渡す」あるいは「贈る」ものだから、僕はそういうときに慌てて銀行に行きたくないので、ピン札があれば必ずストックしていた。

 お年玉についていえば、相手が子供だからと見くびっているのかもしれないし、あるいはただ慣習として「くれてやる」くらいに考えているのだろうと推察される(僕が子供だったら、そんな大人は呪い殺すと思う)。
 結婚式のご祝儀なども、金額をやたら気にしたり、最近重なっててと愚痴を言うのが先になっている人がいて見苦しいと思うタイプの僕だったが、多分、彼ら彼女たちは祝う気もなければ贈りたくもなかったのだろうと想像する(僕が新郎新婦なら、そんな来賓は呪い殺すと思う。あ、新婦はないか)。

 たとえば大掛かりな自由診療(美容整形とかインプラントとか)を受けるときも、僕はピン札を渡す。
 それは使うお金ではなくて、渡すお金だからだ。
 特別なことに使うお金なら、相応に特別を伝える必要があるように思う。

 勝手な想像だが「贈ることの特別」を感じない人間は、つまるところお金を「自分が使うもの」として過剰に執着しがちなのではないだろうか。
 前述のとおり「使う」お金は、ピン札だろうがよれていようが関係なく使える。

 しかし買い物のおつりで端の切れたお札を受け取ったとき、ちょっと残念な気分になりはしないだろうか。
 ポケットの中で丸まったお札をお年玉として渡されたら、ちょっと触りたくないと思ったりしないだろうか。
 受け取るときは気になるくせに、渡すときは気にしないというのは、いささか無神経なように僕には思える。
 今も昔も僕は自分の取り扱うお金(自身の所得である場合も多い)を、あまり「自分のもの」として考えないまま生きている。
 たしかに万能交換チケットではあるけれど、僕自身が提供したサービスなどに見合う対価だと思えたためしがないからだ。

 労働など一定のフォーマットによって入手できる通貨は、たしかに対価として交換に使うことができるが、それによって相応の価値のあるものを手に入れたことになるわけで、使ったところで何も失っていないことになる。
 場合によっては価格以上の価値を感じるモノを手に入れられることもあるわけで、必然、そういうものは定価がいくらであろうと価値がそれよりあるという自身の価値観に基づいて入手して損のないモノになるわけだ。
(お金を「使って」「なくなる」と感じる人は、価値のないものを入手するスペシャリストなのだろう)

 それにしてもお金は基本的には渡したり贈ったりするものであって、そこに受け取る人がいて、提供される価値があり、それを認めて交換するのだから、使う側が偉いというものではないし、高額を支払う人がすごいというものでもないのだ。
 そのあたりを勘違いしている人が多分、接客業のスタッフに横柄な態度を取ったり、高額な商品を使ったというだけの動画やらニュースやらに興奮するのだろう。ずいぶん貧しい話ではないだろうか。

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 姪がたとえ深く考えていなかったとしても「ピン札はもったいなくて使いたくない」と思ってくれたなら、それだけで嬉しい。
 同じ金額の、その些細な差が、つまりは人間の機微に通じているからだ。

「お金なんて、同額ならどれも一緒だ」となってしまえば、やがてお金に使われるような人間になるだろう。
 人の職業に貴賤はないというが、お金にも、生き方にも、仕事の仕方にも貴賤はあるからだ。

「男なら誰でもいい」とか「女ならどんなでもいい」という発言と同じことだ。
「カネなら何でもいい」というのは「労働力なら何でもいい」ということを侮蔑的に意味して自らに投射される。
 僕はそういう生き方をしなかったので、正しくそれを評価できる。
 人はそんな生き方をしてはいけない。
 何でもいい、というのは、己の選択でも優しさでもなく、怠惰な放棄だ。

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 ちなみにピン札のうち、もっとも集めるのがむつかしいのは、5千円札である。
 だからといって電子マネーでお年玉を渡すような哲学のない大人に、僕は死んでもなりたくない。
 そういえば、かの人も親戚くらいはいたろうに、お年玉は渡していなかったのだろうか。







 

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[NEXUS]
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