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TITLE:
化粧ねじ1本分の怪異
SUBTITLE:
~ Screwed up. ~
Written by BlueCat

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220810
 
 ブログを定期的に読んでいる人と、IRLの僕の友人や家族などは知っているが、僕は一人暮らしをしている。
 人間型の肉体に収まっている僕が1人、あとは猫が3匹居る。僕も猫として数えると4匹の猫が暮らしている。
 一般的に、4人くらいの人が住まうような家にひとり、棲んでいる。
 庭と花壇があり、花壇を畑として開墾している。
 今年は暑いので怠けている。もしかしたら飽きてしまったのかもしれないが、インフラ自給率を高めたいとは常々思っている。
 
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 ここに住んでいるのは単に経済的な事情によるので、ほとんどの部屋を持て余している。
 2階部分など半年ほども足を踏み込んでいない。使う必要も感じない。
 
 本当はもっと小さなアパートに暮らしてもいいと思う。今でもそう思っている。
 しかし固定資産税のほうが安い状況なので、家賃の掛かるアパートに引っ越さずにいる。
 
 来客は少ない。
 友人が月に1回くらい、妹や姪が月に1回くらい。
 庭を臨時駐車場に借りている人が月に1回。
 恋人は多いが、自動車で来る者はいない。
 
 1週間、スーパーの店員以外と言葉を交わしたことがないなんて、僕には日常茶飯事だ。
 日本語を忘れないように、ときどき日記を書き、ときどき外食に出かける。
 言葉を使う機会を増やすため、人間が接客してくれる店に行く。
 この家の人口密度は、とても低い。
 
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 ねじである。
 化粧ねじが1本、浴室の床に落ちていた。
 
 昨日、深夜か朝方、シャワーを浴びて浴室を出るときはなかったように思う。
 人は浴室に入り、そして浴室から出るとき、たいてい全裸である。
 タオルくらいは持っているかもしれないし、場合によってはシャンプーや石鹸、歯ブラシなどを持ち込むこともあるだろう。
 しかし昨日の僕は、タオルしか持ち込んでいない。そして出るときは、タオルも持ち出していない。
 
 浴室を出るとき、希釈して界面活性剤を加えた次亜塩素酸ナトリウム水溶液を噴霧する。
 昨日も、したと思う。
 床に何かが落ちていれば、必然に気付く。
 そもそも化粧ねじなどが落ちていれば、シャワーを浴びるときに気付くだろう。今日と同じように。
 
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 ねじはどこから来たのだろう。
 
 一番可能性が高いのは、誰あろう僕自身によって運ばれたというものだ。
 必然である。
 自然でもある。
 何の違和感もない。
 むしろ理想的だし、それ以上説得力のある原因は思い付かない。
 
 しかし僕は、前回シャワーを浴びてから、歯を磨いて眠ってしまった。
 もちろん ── 燃えるゴミの日だったので ── すぐに寝たわけではないが、化粧ねじを持つことも使うこともなかったし、浴室に入ることもなかった。
 ために僕が化粧ねじを運んで落とした(置いた)可能性は低い。
 
 さらにいえば6月の猛暑からこのかた、僕は家のリフォーム作業をサボっている。
 ついでに庭の草取りさえ後回しにしているから、作業着もしばらく着ていないし、工具類を頻繁に使っているわけでもない。
 むしろ初めて見る化粧ねじで、どこで使っているものなのか、これを書いている今も分からない。
 
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 僕が持ち込んだのでないなら、次いで、浴室内の備品や設備から外れて落ちた可能性が高いだろう。
 ちょうど浴室の点検口の真下あたりに落ちていた。
 
 しかし、浴室のラックやフックなどの設備はマグネットや専用の飾りねじを使っていて、今回落ちていた化粧ねじは見たことがない。
 ついでに僕はこの家に棲み始めてから(3年以上になるか)一度も点検口を開けたことがない。
 
 点検口を、下から試しに押してみると、すうっと持ち上がった。
 ねじで留めたり、引っ掛かっている場所はない。
 浴室の換気扇を兼ねたエアコンがあるが、それはバスタブの上に設置されている。
 もしその位置からねじが落ちたら、化粧ねじはバスタブの中で発見されるだろう。
 
 念のため、浴室のドアやドアレール、水栓パネルなども見てみたが、化粧ねじを使っている場所などなかった。
 それに発見した化粧ねじには、どういうわけか水垢も、石鹸カスも、カビもホコリも、サビも付いていない。
 使用感はあるのだが、汚れていないのだ。
 水や洗剤に触れる場所で使われているものではない。
 
 さらに浴室内の電灯を調べようとしたのだが、点検口から交換するタイプのようで、浴室内からアクセスできるものではなかった。
 
 つまりこの化粧ねじは、少なくとも浴室内にもともとあったものでも、あるべきものでもない。
 
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 残るは猫である。
 僕の家に棲む、僕以外の、猫の身体を持つイキモノである。
 
 しかし猫たちはそれぞれこの家の中で縄張りがある。
 クロはケージから出てこないし、仔猫(名前はまだない)は縁側のエリアから出ない。
 この家を自由に行き来するのはアヲだけだが、アヲはお風呂が嫌いなので、半年以上浴室に入ったことがない。
 
 そもそも浴室のドアは、僕が開けるまで閉まっていた。
 つまり猫が持ち込んだわけでもない。
 
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 ちなみに浴室へのアクセスは、さほどむつかしくはない。
 僕は眠っている間も日中なら鍵を開けていることが多いし、浴室は防犯用格子が屋外に付いているので、たいてい網戸が閉まっているだけである。
 だから誰かが網戸を開けて化粧ねじを投げることは可能だし、なんとなれば昼寝の間に玄関から入って、浴室に化粧ねじを置いて帰ることもできる。
 
 ── いったい何のために?
 
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 考えるに、僕が寝ている間に誰かが浴室の点検口から屋根裏に忍び込むことだって比較的容易な気はする。
 もちろんアヲはとても耳が良いので、数字に合わない人の気配を察知して僕に教えてくれる。
(往年に比べて僕の耳は劣化したので、人の気配にさほど敏感ではなくなった)
 
 しかし、気配を消して忍び込むことのできるような人間が、果たして化粧ねじなど落としたままにするだろうか。
 
 むしろ僕が夢遊病ついでに床に置いたと考えた方が現実的である。
 
<このビスは実在している。ビスを持ち込んだ存在もまた実在しているはずである>
 
 
 
 
 
 
 

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[NEXUS]
~ Junction Box ~
 
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[Engineer]
  :青猫α:青猫β:黒猫:
 
[InterMethod]
  -Algorithm-Diary-Ecology-Stand_Alone-
 
[Module]
  -Reactor-
 
[Object]
  -Night-
 
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[Cat-Ego-Lies]
  :ひとになったゆめをみる:
 
 
//EOF